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ひるね姫 〜知らないワタシの物語〜のhiroのレビュー・感想・評価

4.0
設定5/脚本3/役者-/映像音楽5/個性3

あれ?楽しめてしまったよ?
自動車業界の産業構造と家族愛を絡めたSFファンタジー。

現実世界は2020年東京五輪の3日前、舞台は倉敷の自動車修理工場。
夢世界は王の命令でほぼ全国民が機械産業に従事する国ハートランド王国。王国や登場人物には現実世界との対応関係があるパラレルワールド。
主人公は昼寝をすることで夢と現実を行き来しており、夢世界で起こした行動は現実世界にも反映される。
ある日父が突然警察に捕まり、主人公が父から守るように連絡されたのは夢世界にも登場する謎のタブレット端末だったーー

予告編では主人公が夢と行き来する能力の正体が紐解かれるようなミスリードがありますが、これについて明確な答えは提示されない。
また現実世界も近未来な上に、一方の夢世界は幼めの設定というギャップも混乱を招いている。
ただ、夢世界というのは現実の暗喩でしかなく、その行き来能力というのはさほど問題ではないと思った。「なんで世界が2つ存在してるの?」という見方で入ると抜け出せなくなるので注意。

結論としてはたしかに薄っぺらい。社会構造の1ページを切り貼りしただけで肝心の主人公や亡き母の感情というのがほとんどない。ここが本当に勿体ない。

そんな思いでエンディングを迎えたところで泣かされます。エンディングテーマの歌詞は忌野清志郎が会うことのできなかった亡き母への思い。主人公と重なり、母の回想シーンも流れ、最高に泣けます。

★★★以下ネタバレあり★★★

夢世界の暗喩ですが、

・ハートフル王国⇔志島自動車
・国王の命令通りの労働⇔自動車業界の下請構造と一昔前の護送船団方式
・災いをもたらす魔法⇔ハードウェアで稼いできた自動車産業の構造を転覆させるソフトウェア(IT)業界
・魔法を使わないと倒せない鬼⇔既存の産業構造では対抗できないグローバル化・IT化の波
(・ヒルマウンテン⇔岡山、これは安易すぎて笑ってしまった笑)

と明確にとらえられた。この舞台設定と亡き母が歩んできた道がしっかりリンクしていて、納得のいく形になっていた。
また、夢と現実を行き来できるというのは当人(母)が夢の技術を現実にした張本人だからでしょう。夢の中で車が空を飛んで移動している間、現実では自動運転で移動しているシーン、まさに魔法∋自動運転技術の関係を明示していた。

主人公の両親の生き方は最高にロックで尊敬しちゃうんですが、主人公はそんなこと一切知らずに生きてきたわけです。それがこの事件を機に亡き母の人生を知ることになり、人生の深みに気付く。
冒頭では東京はキラキラしてるから行ってみたい~みたいなキラキラ発言をしてたのがラストでは進路を考えるという明確な意思をもって東京に行きたいと発言していました。

監督いわく自動車と東京五輪は戦後日本の成功体験の代表でありながらまもなく転機を迎えるものなのでチョイスしたとのこと。
祖父は祖父で自ら築いてきた王国を守ろうとしてるだけで、悪意はない。でもそれでは滅びると主張する両親世代と、成長途上で無関心の主人公世代。それぞれの世代が1ステップ上に行く話だったんだと思います。
ただ残念ながらそのどれもが淡々と語られるまでで観客に訴えかけてくるシーンがない。それぞれの葛藤がもう少し深堀されてたから心を揺さぶるより良い作品になったかも。

大企業病に対するアンチテーゼ的なテーマ自体が好きなので個人的にはハマりました。

2018-8(7)
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