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時の彼方へのKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

時の彼方へ(2008年製作の映画)
3.0
[パレスチナ、現代の不在者の年代記] 60点

初長編が『消えゆく者たちの年代記』という題名だったが、本作品のほうがよっぽど"年代記"してる。ざっくり四部構成となる本作品は、1948年のイスラエル建国によって迫害されることになったパレスチナ人について、ある一家の歴史を追うことでミクロな視点から故国の歴史を捉え直そうとしている。そして、その一家というのがスレイマン一家なので、半分くらいは自伝的な要素も含んでいる(はず)。テイストは他の三作品と似ているのだが、ガチの年代記とすっとぼけギャグの相性が微妙に悪く、全体的に鋭利さを欠いているのが難点。特に夜釣りや先生の説教など同じギャグを繰り返して時間発展させるおなじみのギャグが一番繊細さを欠いていたように思える。視点もミクロすぎるのだが、自伝と呼ぶには普遍化しすぎていて中途半端にしか見えない。そして何より、傍観者とも観察者とも言えない少年~青年エリア・スレイマンの立場の微妙さには首を傾げたくなる。それでも、第四部になってスレイマン本人が中年エリア・スレイマン(=E.S.氏)として登場すると格段に面白くなる。ゴミを出しに行く青年の頭を戦車が真横で狙い続け、クラブを取り締まりに来た軍人が漏れ聞こえるリズムに合わせて身体を動かしながら警告を発し、交通整理員は友人が来ると車を止め、夢の中でスレイマンはパレスチナとイスラエルを隔てる壁を高跳びの要領で飛び越える。これぞスレイマンって感じだが、やはりそこには我々の観たいスレイマンと本人の見せたいものの差があるのだろうかと考えてしまう。

ちなみに、『消えゆく者たちの年代記』にも登場した土産店"聖地"は本作品にも登場している。単純計算で12年ほど経っているが、健在だった。今でもラクダが倒れたままなのだろうか。
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