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田園に死すのHKのレビュー・感想・評価

田園に死す(1974年製作の映画)
3.7
詩人の寺山修司によるATG配給の日本映画。キャストは菅貫太郎、八千草薫、春川ますみなどなど

恐山の麓で暮らしている主人公の私。彼にとって唯一の楽しみは、イタコに父親の霊を召喚して会話することであった。ある日、見世物小屋の団員の話を聞いて外の世界に憧れを抱き、同じく今の生活に嫌気のさした隣家の女性と駆け落ちを理由に家出を図るが…

なるほど…これぞ園子温さんの原型とでもいうべきような作品と言いますかね。はい、テーマ性は結構普遍的ながらも、映像的な切口というものは本当に寺山さん独特のものとなっていますね。

ただ、映像から出てくる一種の味というものは園子温さんのような苛烈な部分も十分あるものの、それ以上に煮えたぎらない心情というものがなんか伝わってくる気がする。

しかし、ヨーロッパのアート映画的な俳優や装飾品の配置の仕方には観ているこっちも阿鼻叫喚せざるを得ません。やはりこういうドラッグ描写とかトランス描写というものが自分は好きなもんで、それを徹底的にやりきってしまうこの人の映画も好きなのかもしれません。

個人的には、後年に作られた「パプリカ」とかにこの映画の幻覚的な作用が効いた演出を顧みることができたと思っています。なんか似ているんですよ。明らかに芸者みたいなその場に似合わない人たちが裏で行進しているシーンの作りとか、雛壇が川上から流れてくる演出とか何故か大量に壁に貼り付けられる時計の数々。意味が無いにも関わらず場面に漂う目に余る異物を観ているとそれだけで引き込まれてしまう。

思えば、園子温の演出にも時計の秒針が進む音などは良く取り入れられています。同じ詩人出身の監督だから影響を受けているのだと思いますね。

この映画は他にも、「少女革命ウテナ」などでも音楽を担当したJ・A・シーザーさんの楽曲がふんだんに使われています。ただでさえドラッグ描写が強いこの映画に、さらにあの人の音楽が付け加えられるともう止まらない。いろんな意味で画面に釘付けになります。

それでいて、作品のテーマ性も分かりやすい、「日常からの脱出」そしてそんな綺麗ごとなど打ち消すかのような「現実との向き合い」をしっかりと取り入れていて素晴らしいと思いました。

もっとこの人の監督作品を観てみたかった。他の監督作品も見てみたいですね。
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