ベンジャミンサムナー

田園に死すのベンジャミンサムナーのレビュー・感想・評価

田園に死す(1974年製作の映画)
5.0
 「そしてこれは、ただの映画なのだ。だが、たかが映画の中でさえ、たった一人の母親も殺せない私自身とは、一体誰なのか?」

 同じ寺山修司でも『書を捨てよ町へ出よう』は全然ハマらなかったが、こっちはもうオールタイムベスト級に好きな作品である。

 『書を捨てよ〜』はひたすら冗長だったが、本作は全編ホドロフスキー映画のようなサイケデリックな画で埋め尽くされており、尺も適切。(っていうか他のレビュアーも言ってる通り、モロ『リアリティのダンス』である)

 それでいてヴィジュアルが奇抜なのは、それが虚飾された過去である事とシンプルに結び付いてるし、ご丁寧に「書くつもりで対象化した途端に、自分の風景も皆、厚化粧された売り物になってしまうんだ」という言葉通りに少年時代の"私"をバカ殿のような白塗りにしたりと、見た目のアヴァンギャルドさとは裏腹に分かりやすい内容である。

 特に大人の"私"と少年時代の"私"がカオスな田園風景の中で将棋を指しながら対話する場面が好き。
 もし自分が過去の自分と対面したらどういう会話をするだろう?という想いを巡らせてしまう。

 「もっと若い頃にああしてりゃあ今の自分とは違う自分になれてたかもなぁ…」って夢想しがちな人には結構刺さるんじゃないだろうか?