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淵に立つのhabakariのレビュー・感想・評価

淵に立つ(2016年製作の映画)
3.5
(1) 中学生の頃、父親が仕事から帰ってこない日があった。家に連絡もなく、携帯の電源も切っているようだった。父親の失踪は以前もあったことなので、多少心配しつつも床についたことを覚えている。
日付が変わる頃家に着信があり、母親が泣きながら部屋を出ていった。
翌朝眼が覚めると、居間には顔に傷ひとつない父の亡骸があり、室内修繕の名目でホテルから請求書が届いていた。自殺だったらしい。ホテルの部屋で遺体を見つけ、警察に通報してくれる「誰か」と一緒に居たのだろう。
火葬後、骨壺を抱えた僕は、それがとても不潔なもののように思えて、僕自身の身体も汚れたような気がした。いや、父の子である時点で既に汚れていたのだと。横には何のためにか涙を流す母がいた。
それ以降僕は潔癖症になり、外出先から戻るたび10分以上かけて手を洗うようになった。冬には赤切れが絶えず、扉は手でなく肘で開け閉めした。ルーティーンは高校を出て上京するまで続いた。

(2) 容赦のない脚本、緻密なアンサンブル。特に筒井真理子が凄まじい。母から女、そして狂気へ。トンネルに入った瞬間のあの一言。
映画はメトロノームの振動で始まり、荒い吐息で終わる。一定のリズム、ルーティーン。消えるべきでないものが消えても、宙ぶらりんの二人は生活を続ける。溢れそうな罪を抱え、淵に立つまま、向こうに行けず。
蜘蛛のように子が親を食いつぶしてくれたなら、どれだけ楽になるのだろう。
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