あましお

淵に立つのあましおのレビュー・感想・評価

淵に立つ(2016年製作の映画)
3.7
オルガンを弾いている女の子の背中から始まる家族の物語。
平和でほっこりする描写なはずなのに、なぜこんなに嫌な予感がするんだろう。
ご飯を掻き込む音、夫婦の事務的な会話、八坂(浅野忠信)の存在、薄暗く感じる家、全部が不安をあおってくる。
いつ崩壊するかわからない吊り橋の上に一人で立たされているような感覚。

そして、その嫌な予感が的中するような悲劇が起きる。
「こんなことが起きるなんて」でもあり、
「ほらね、言わんこっちゃない」でもあった。

八坂が現れる前、夫に敬語で話しかけていた妻は、八坂が消えてから8年が経つと、タメ口で話すようになっていた。
こんな些細なことで、前よりも”家族らしく”なったなと思ってしまったが、それはほんの束の間だった。

同じ悲劇を共有した夫婦だからといって、絆が強固になるわけでも支えあっているわけでもない。
悲劇に対する捉え方は夫婦間で全く違う。
思い返せば2人に一体感なんて最初から皆無で、所詮他人であること、独りであることが明白になる。
一体この家族はどうしたら救われるんだろう。

観客に受け取り方を委ねたラストシーンだったけど、私は絶望の中にほんの少しの清々しさを感じた。
とても芸術的な作品でした。
あましお

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