おーたむ

淵に立つのおーたむのレビュー・感想・評価

淵に立つ(2016年製作の映画)
4.2
あらすじを見て興味が湧きレンタル。
ううむ、こりゃ凄い映画。
壮絶さとか迫力とか緊張感とか、そういう凄さも感じないわけではないんですが、形容しにくい落ち着かなさが凄かったです。

ある家族のもとに一人の男が現れ、家族はその男によって大きな傷を負い、長い間傷を抱えたまま過ごした後、男の息子が現れたのを契機とするように、また男へと迫ろうとする…というような話。
なのですが、ぶっちゃけ、ストーリーは全然スッキリとは終わってません。
話の終わり方がモヤモヤするというのではなく、作品がストーリーの(というよりシーンの)途中でプツリと閉じてしまうんです。
しかし、それでも本作は、描こうとしたものを、なんら不足することなく描ききっていたと言えるんじゃないでしょうか。
本作が描きたかったものって、起こった出来事の顛末ではなく、それによって浮かび上がる人間心理の奇怪さだと思うので。

そして本作は、その描こうとしたテーマについて、観ているこちら側に考察を促してくる映画でもあります。
赤色と白色、蜘蛛の母子の逸話、四人並んで寝転がるという構図などは、明らかに何かの象徴として差し込まれているし、闖入者・八坂や、彼の息子・孝司らの行動について、決定的な描写を避けているため、さまざまな解釈が可能です。
これはこういうことを示唆してるんじゃないか、ここはこういう風にも受け取れるんじゃないか、などと考えを巡らすうちに、なんだか人間の心の最深部に分け入ってるような気になってきたりして。
安直な描写を注意深く取り除き、結論を出すことに慎重な姿勢を貫いた結果、本作は、謎めき、不穏で、得体のしれない作品になったのだと思います。

という具合に、単純明快ではないし、爽快でもないし、心穏やかには見られないし、幸せな気分にもならない映画ですが、奥深さを感じる映画ではありました。
まあ、奥深いと言っても、淵に立って、底の見えない闇を覗き込んでるような類いの奥深さですが…。
しかし、振り返ってみても、やっぱりこれは、凄い映画だと思います。
あんまり何度もは見たくないけど、何度も見ることでさらにその真価を発揮するタイプの作品でしょうし、再鑑賞しようかしまいか、ちょっと迷ってます。
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