菩薩

蜂の旅人の菩薩のレビュー・感想・評価

蜂の旅人(1986年製作の映画)
4.2
きっと後三十年、いや二十年後に観ていたら号泣していたような気がする。老境に差し掛かり、親としての責任も全て果たし、ふと人生の無意味さを知り、職を辞し家庭を捨て蜂と共に旅に出る口ひげを蓄えたマストロヤンニ(以後、口ひげヤン兄と呼称)。過去を生きる口ひげヤン兄と、そんな彼につきまとうこれからの未来を生きる少女、本来交わるはずのない二人が出会う事で描かれる、繰り返される諸行無常、蘇る性的衝動。要するに働き蜂である口ひげヤン兄と、女王蜂である少女の物語で、働けど働けど、集めた蜜は搾取され続ける人生、その羽ばたきを何かに捧げ続けた人生、それも全てが終わった時に、幸せってなんだっけを過去に見つけに行く話、男と女、独裁制と共和制の話、だとするととてもシンプルで鑑賞しやすい作品だと思う。愛と老い、響は近いが非なるもの、禁欲的な前半から衝動的な後半への飛躍、そして突き抜けすぎた終末が心を揺さぶる。蜜を吸うかの如く口ひげヤン兄の掌からその血を吸う女王蜂、寂れた映画館のスクリーンの前で繰り広げられる情熱的な交わり、未来を羽ばたかせる為に消費される過去。まさに本人の言葉を借りればメランコリックを濃縮したローヤルゼリーみたいな作品、途中真冬の海に全裸で飛び込む旧友(当然ジジィ)が最高すぎるし、なんせこの少女が猛烈に可愛い、後最初に出てくる花嫁役の人も。寡黙と孤独、ヤン兄の佇まいはそれだけで芸術的、渋い。
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