しゅん

The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめのしゅんのレビュー・感想・評価

3.8
すごくいいじゃないか。ソフィア・コッポラは舐められすぎだと思う。フェニックスがあんな静謐な音楽を作ることにもびっくり。

この映画の中ではあらゆるものが裂かれる。布が裂かれ、枝が裂かれ、脚が裂かれ、シャンデリアが裂かれる。にもかかわらず、女たちは最後の食卓で手を繋ぐ。この紐帯の強さ、おぞましさ。欲望が渦巻く最中にも表面上の潔癖だけは決して崩さんとする強烈な引力が古代ギリシア風の屋敷(あんな神殿みたいな柱の家ほんとにあるの?)を支配する。美しい自然光の降り注ぐなかでも屋敷の中は暗く、薄汚れた部分には視線は届かない。男が暴れても、血が飛び散っても部屋が散乱した様子は一切見られない。そもそも、この屋敷には雨が降らない。美しい陽光以外のものを受け付けない。ニコール・キッドマンがバルコニーから望遠するショットが幾度も反復されるのは外部を徹底的に排除するからだ。美と平和の結託を阻むものは全て葬り去る。一方の少女が階段を昇り、もう一方が降りることでコリン・ファレルの肢体を引き裂く。エル・ファニングは彼の運命をあらかじめ嘲笑うかのように微笑むが、同時にそれは彼女たち自身の去勢された欲望を嘲笑うかのようでもある。最後の夜、彼女たちはどのような狂乱を演じたのか。全てが終わった後に彼女たちはどうなっていくのか。禁欲的に、物足りないほどにそれらは描かれない。緩い縫い目から何が飛び出していくのか。それを目撃し引き受けるのは、観客の想像力だけである。
しゅん

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