お湯

The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめのお湯のレビュー・感想・評価

4.2
◇女性の話ではなく、人間たちの話


今作は女性目線で描かれた、なんて言われているけれど、
女性の話、と言われるべきではないと思う。

女は学園に身を潜め、男は戦場で身を削る。そんな世界が、ストーリーの舞台。
女性は女性であることが際立つし、
男性は男性であることが際立つ。
女性は、白い服に髪をまとめ、見た目はいわゆる女性らしい人達。
男性は、体が大きく髭を生やし、見た目はいわゆる男性らしい人達。
性別により分断されている世界が、混じり合うからこそ、性別だけでは説明できない、人間としての愚かさが強調されていたと思う。


女は感情的、男は論理的、なんていう、なんともアホらしい考え方が、一般的に蔓延っている。
だけど、この作品では伍長も"ヒステリック"な場面もあった。ヒステリックという言葉は女性蔑視から生まれた言葉だけど、この伍長の行動が女性らしいか、と言われたらそうは思わなく、ただ人間だから感情的になった、としか思えない。女性たちも、感情的だ、ととれる場面は、いくつかあった。その行動を、"女は感情的"なんて、言われてしまう世の中が、私たちが生きる世界。
女性たちが論理的に動けば、"女は怖い"のんて、言われてしまう世の中が、私たちの生きる世界。


人間だから、女だって感情的だし論理的で、
人間だから、男だって感情的だし論理的。


こんな書き方をすると、女性ばっかりを良いふうに、なんて思われてしまうから、逆を書けば性欲にしたがって動くのが男だ、なんて言われるけど、この映画見ると、女もそうだろうよ、って思うでしょう。

どちらもそこに葛藤があり、衝動がある。



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あと同じような衣装を着た女性たちの、キャラクターの書き分けも、混乱させずに分かりやすかったし、
女性たちを虜にしてしまう伍長の、危ういようで真面目なような、野性的なようで繊細な、見る人によって変わって見える魅力も素晴らしかった。


衣装や美術ももちろん美しかったけれど、
なにより自然光やロウソクのゆれる火などを感じさせる、淡い画面が本当に美しくて、もっと見ていたかった。

昔は男性社会だった映画界で、最も優秀な女性監督だと言われる、ソフィア・コッポラ。
彼女の才能や努力は、彼女だからこそのものなのに、『女性ならではの』『女性らしい』『女性目線の』と言われてきた。

私自身も男性達の中で仕事をして、全ての才能と努力を、『女性ならではの目線』と結び付けられたことがある。
それが嫌で、退職したくらいだ。

だから、この映画を女性目線で描かれた映画だと称するのは、私はとても嫌で
ソフィア・コッポラという優秀な映画監督だからこそ撮れた、美しくて繊細な素晴らしい映画である、と思いたい。
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