ベルサイユ製麺

The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめのベルサイユ製麺のレビュー・感想・評価

3.6
えっへん。
今作は、今から50年以上前に公開された米映画のリメイクであります!
元のタイトルは…確か色に関係してたような…。『幸せの黄色いハンカチ』か、『ジャガーの眼は赤い』とか、そんなだと思います。勿論!観てませんが、なんとなく粗筋は知っている、という、映画好きあるあるですね。
タイトルの『ビガイルド』って、何なんですかね?全然分かんなくて、なんか怖いっすよ、もう。(←とにかく調べない)


光が殆ど届かないほど鬱蒼とした並木道のトンネル。少女がはなうた交じりに歩いてく。
1864年。南北戦争三年目のバージニア州。この森にも小さく炸裂音が響いている。
少女はカゴを手に、市役所に持っていくカミキリ虫の首をもいでいる。ふと何者かの気配に気づき視線を向けると、北軍の兵士の格好をしたコリン・ファレル!いや、もう目で分かるって!
…もとい、北軍の名も無き兵士が負傷しへたり込んでいる。少女は彼に肩を貸し、彼女と数名の生徒・先生達が寄宿しているフォーンズワース女子学園に一先ず連れ帰ることにした…。


先生2人、生徒5人、クリスチャンの女性だけで世間から隔絶されて暮らしているところに、いきなり大怪我の特殊メイクしたコリン・ファレル…っぽい敵側兵士が転がり込んでくるものだから、彼女達は右往左往、立ったりしゃがんだりする事になります!
イニシアチブを取るマーサ先生にニコール・キッドマン。マーサにいつも言いくるめられる押しの弱いエドウィナ先生にキルスティン・ダンスト。…やめて!そんなイジワルなキャスティング!きっとニコール、台本読んで「へーへー、あっしがやりゃあいんでしょ?いつも通りの高慢ちきをヨォ」って思ったに違いない!
5人の生徒たちは基本イノセント感アリアリなのだけど、一番お姉さんのアリシア(エル・ファニング)だけは、此処が窮屈で仕方ないといったふうで、菅田将暉の顔真似でいつも不満げです。そのため外からやって来た刺激物に興味津々。
慈悲深いマーサ先生は、気を失ってるジョンの身体を濡れ布巾できれいにしてあげます。ふきふきふきふきふ…はぁ。慈悲です!ふきふきふ…。更にマーサが“医龍”読者だったので、見よう見まねのバチスタ手術は成功。脚の怪我なのに大きな開胸跡があるのに軽く驚きつつ謝意を伝えるジョンであります。ジョンはジェントルで知的(な振る舞い)なの。
さて問題はこの後。
仮にジョンが善人だろうがコリン・ファレル似だろうが、敵軍の脱走兵をこのまま屋敷に置いておいて良いものか?
朝生ばりに過熱する乙女議論に戦々恐々のジョン。放り出されたら、死あるのみ。止む無く彼は生き残りの為+天性の獣性により、彼女たちを切り崩し懐柔しようと試みるのです。…うわぁ、いやらしい。描写がエロチックと言いたいのではなくて、嫌な事考えるなーって言う。
全方位いい顔のジョンの滑稽さ。全員を「一番だ」「特別」「やっと会えたね」と褒めちぎっては取り入ろうとする姿の情け無さ。そしてそれにまんまと呼応して、マウントしあう女達の浅ましさ。これ、コメディ的によく出来ていて、マジで笑えます。…途中迄は。
ジョンの迂闊さに起因する、或る悲劇を契機に彼らのパワーバランス、思惑は完全に変わってしまい…というのが後半。
いやあ、よく出来てますねぇ。まるで、水族館の巨大水槽眺めてるみたい!状況がくるくる変わる。そしてテンポもめちゃくちゃ良い!当然ですけど映像もホント綺麗。説明的になり過ぎず、画の美しさや構図で必要な事柄は自然に伝わります。ソフィア・コッポラの映画への信頼感が自然に伝わってくるようで、非常に好印象。
…ところで、なんで今敢えてこのリメイクに挑んだのか、ずっと気になっていたのですが、…まあ、当然分かんないです。でもやった甲斐は確実にあった。男の、女の愚かさを、閉鎖環境の危うさを、都合良く捻じ曲げられる信仰心を、何より戦争の碌でもなさをソフィア・コッポラにしか出来ない繊細さで描けています。リメイク、他の人にやられなくて良かったですね。ポール・W・S・アンダーソンとかね。

ラストシーン、閉ざされる門。放置される白い包み。命ある限り、外の世界には出られない定めなのか?内に籠るしか無い異常な世界…。“異常”な世界?“白い”包み?
!!
思い出しましたよ!リメイク元の作品のタイトル!
『幸せの白い異常なハンカチの夜』!

…“肌”と“黄色い”もどっかに入ったような気がするんだけどな…。