COZY922

ロスト・バケーションのCOZY922のレビュー・感想・評価

ロスト・バケーション(2016年製作の映画)
3.7
「アデライン、100年目の恋」で好きになった女優ブレイク・ライヴリー。彼女の主演、かつ、個人的なツボを大はずしすることが少ないサバイバルものということで鑑賞した。

86分と短く小粒の作品ながら、期待にたがわず おもしろかった。本作のメインステージはサメが徘徊する海の上の小さな岩礁だ。岸はすぐそこ。体力と 波の条件さえ整えば泳いで戻れる距離。だが、凶暴な人喰いザメがそれを阻む。彼女はどうやってこの状況から脱け出すのだろうか?

どこにどう向かえばいいのかわからない状況も過酷だけれど、目指すべき場所がすぐそこに見えているのに 為すすべが無いのも別の苦しさがあり、激しい絶望感に襲われる。見えているのに辿り着けないジレンマ。届きそうで届かないということが絶望の傷を深くする。それは目指していた夢の実現が叶わないと悟った時のそれに どこか似ている。

ブレイク・ライヴリーの演技も良かった。数人の登場人物はいるものの ほとんど彼女1人の映画と言っていいだろう。海に隔てられた小さな岩は潮が満ちると埋没し、サメの餌食となることは必至だ。孤立し体力も消耗する中、ラッシュガードで止血したり、ペンダントやピアスを使って傷口を縫合したりと 持てる知識や技術を駆使しながら生への道を模索する姿にこちらも手に汗握る。特に縫合のシーンは フィクションだと知っていても痛々しく思わず目を反らしたくなった。迫真の演技。昨年観た「アデライン・・・」といい本作といい、今の彼女は「ゴシップガール」のような役よりもシリアスな役のほうが より似合う。

そしてカモメ。助演男優賞(女優賞?)はこのカモメに捧げたい。「キャスト・アウェイ」で主人公がボールにウィルソンと名付けて心の支えにしていたように、こういう状況では物だろうが動物だろうが何か拠り所が欲しくなるのだろう。それは人が1人では生きていけないという証でもある。

サバイバルや脱出ものに惹かれる理由は、究極の状況に追い込まれた人間が見せる その人の生き様や 生身の人間としての嘘の無い感情が凝縮されているからに他ならない。シンプルて明快なストーリーの中に その人の信念や 強い想い、愛情、後悔、気付きなどが赤裸々に展開されるから、共感し 涙し 心を揺さぶられるのだと思う。

主人公も、1人になって初めて、自分が1人ではなかったことを実感したに違いない。
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