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ブレードランナー 2049のTakaCineのレビュー・感想・評価

ブレードランナー 2049(2017年製作の映画)
4.2
【人間の偽物 = ≠ レプリカント】
〈ブレードランナー 2049 考察〉
あなたが本物の人間であって、レプリカントでない確証は何ですか?

ふと、そんなアホな質問が浮かびました(笑)。そりゃ、人間に決まってるだろ!とか言わないでね(^o^;)

例えば、あなたが実はレプリカントで人間の「記憶」を完璧に移植され、ずっと"人間"として生きてきたとします。きっと何も変なところがなければ、その記憶を疑うことは…まずないでしょう。

本当はレプリカントなのに、"人間"と思って生き続けるわけです。そして"人間"と思い込むことで、より"人間らしく"なって判別など出来ないかもしれませんね。

〈人間らしさとは?〉
そもそも"人間らしさ"って何でしょうか?それは「感情」の有無。心理テスト(VKテスト)で、瞳孔反応から「感情」の揺らぎ度合いを調べることで、レプリカントか否かを判断します。

人間の本物の記憶には体験から紐付く「感情」があり、レプリカントのプログラムの記憶には「感情」はない。もしくはその「感情」さえも偽物です。

その前提でテストをしていたはずが…レプリカントにも本物の「感情 」が生まれたことで、人間らしく考えて、悩み、怒りや悲しみを抱くようになります。前作のロイを中心に、苦悶するレプリカントの姿が印象的でした。

そんなレプリカントの進化系が、主人公の"K"(ライアン・ゴズリング)です。いつも雨に濡れた捨て犬っぽいゴズリングが、本作でもボロ雑巾並みにボロボロで…もう憐れで憐れで…最高に似合ってました(*^^*)♪(褒めてます)

思わず洩れ出た"K"の慟哭…その瞬間、共に涙が溢れました。虐げられ続けた深い哀しみや怒り、俺はこんなんで終わりではないという反骨心。ゴズリングの秘めた感情表現が素晴らしかった!!共感できました。

本作では、「記憶」と「生命」が重要なキーワードだと思いました(やっと、本作の感想に入れました。長くてすいません)。

記憶:
過去の経験の内容を保持し、後でそれを思い出すこと(Wikipediaから引用)

"K"はある記憶の断片に翻弄され、操られ、避けがたい未来(宿命)を引き寄せてしまいます。

哲学するSF映画である本作は、人類の起源と終着点を描いた『2001年宇宙の旅』に匹敵する、"人間とは?"の問いに真っ向勝負した意欲作です。もう哲学全開でしたね!

"K"の記憶を辿る旅は、"人間らしく"なる旅でした。またヴィルヌーヴ監督らしく、愛を巡る旅でもありました。

〈生命への実感〉
「記憶」は生物が危険を避け、安全に豊かに生きるための大切な道具。

ということは、どんな記憶を持つかが重要ですよね!その記憶が楽しいものか、苦しいものか、役立つものか…記憶の蓄積が豊かな思い出にもなるし、逆にトラウマにもなります。心の成長や安定度合いは、ある程度、記憶の内容や質に因るかもしれませんね。

一番心を成長させ安定させる記憶は、「愛」の記憶だと思います。お互いを思い遣り、危険から守り守られ、心を温かく豊かにし、情動を安定させます。

前作ではデッカードとレイチェルの愛、本作では"K"とジョイの愛が繊細に描かれ、最も重要なテーマ「生命(魂)を実感する」を浮き彫りにします。

人間=本物の生命(魂がある)
レプリカント=偽物の生命(魂がない)

本作の印象的な場面である「雨を手に受けるジョイ」や「雪を手に受ける"K"」。この2つの所作から「少しでも生きている実感を掴みたい」という切ない気持ちが痛いほど伝わりました。

実際に触れることで、本当の記憶や感情を強く知ることが出来る。その究極の体験が「愛」です。ジョイはそれを知っているので、実体を"K"のために手に入れます。この「愛」は紛れもなく本物です。

更に「愛」の延長にある生命誕生は"種の繁栄"と"進化"を意味するので、人間にもレプリカントにも憧れと畏怖と希望の念がありました(またメシアの意味合いが強い。奇跡。救世主)。

"ラブ"という名のレプリカントが涙を流す時、それは生命(誕生と死)に触れ感化されたからではないでしょうか?

疑うまでもなく、神と人間、複製と倫理、生と死など内包するテーマは複数あると思いますが、"K"に関して言えば、自らの「記憶」を探り、ジョイに「愛」を教わり、自分ができる「生命」の為の行動をした時、人間以上に人間らしい「魂」がある存在になれたと思います。「愛」を受け取り、「愛」を守り抜いたのです。

それは彼が"特別な存在"になった瞬間でした。人間でもあり、レプリカントでもある存在。

仰向けで空中を見つめる時、借り物の空虚な人生を生きる"K"ではなく、自らの本物の役割に目覚めた"ジョー"として、生きた証を築けたことに満足しているように僕には見えました。

人間だから人間らしいとは限りません。人間らしくあるために「どうあるべきか?」を、"K"を通して突きつけられた気分でした。

自分は人間だろうか?
人間もどきではないのか?

呆然として観終わりました。

ふぅ、まとめるのに疲れました。
頭パンパン(^o^;)ヨムノツカレマシタヨネ

【飲み込まれる世界観】
哲学的な解釈が好きな僕としては、「本来の自分に戻る旅」は少しも飽きませんでしたが、人によっては、時間を掛けてゆったり移動する映像に眠くなるかもしれませんね(僕は1~2度くらい)。このゆったり感によって、この世界に…そして"K"に同化していきます。

水、炎、木、雨、雪の映像表現が出て来て、全編が見事なまでに美しい詩的で絵画的な映像世界(まるでタルコフスキーの映画)。問いかける重厚にして繊細に設計された音。ピラミッドのような神秘的な建造物(光のシルエットが美しい!)とガラクタさえ魅力的な機械的デザイン。その圧倒的世界観に頭がクラクラしまくり!

今回、"TCX"と"ATMOS"を体験したくて、「TOHOシネマズ 新宿」まで行って来ました。壁一面隅々まで拡がる巨大スクリーンに圧倒され、360度響き渡る音響に包まれて、最高の鳥肌が立つほどの没入感でした(*^O^*)

なんという贅沢!!
ブレードランナーの世界を映画館で体感できる幸せをありがとう(*^^*)♪♪

キャストが凄く良かった!
ゴズリングの寂しい眼。
フォードのくたびれた体躯。
アナ・デ・アルマスの可愛さ。
ロビン・ライトの男気(?)。
デイヴ・バウティスタの迫力。
ジャレッド・レトの狂気。
シルヴィア・フークスの強がり。
○○を飲む犬(名前は分からない)。

みんな素晴らしい存在感でした。

スコット版の続編と思うと違う気がするけど、ブレードランナーを基にしたヴィルヌーヴらしい深遠な哲学映画でした。運命を受け入れる物語。目も頭も忙しかった(笑)

少し点数が低いのは、物語が変に分かりにくいのと、"K"とデッカードが初対面する場面がどうも不可解(なぜそこまで殴り合う?その後に酒って?)だったため。なんか勿体ない!

個人的には、ウォレスとラヴの関係をもっと描いて欲しかった。
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