たけひろ

ブレードランナー 2049のたけひろのレビュー・感想・評価

ブレードランナー 2049(2017年製作の映画)
5.0
切なく、美しかった。

ザ・ハードボイルド。

公開された1982年以降、その革命的な新しさに影響を受けた様々なSF作品群により、模倣され尽くしたのちの鑑賞だった、ということもあり、幸か不幸か、リドリー・スコット監督による前作「ブレードランナー」原理主義、ではない私。

なので、昨年の劇場公開時には敬遠してしまったのだけれど、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督による本作「ブレードランナー 2049」こそは、映画館で観るべき大傑作であったと、大後悔。

クライマックス手前で明かされた、残酷な真実には思わず

「すごい…!」

と声を発してしまうほどだった。

ビジュアルも世界観も進化&深化していて刺激的。

前作を観ずに、本作だけを観たとしても、充分に理解して楽しめるであろう、素晴らしい脚本。

詩情あふれる哲学的な作品を、エンターテイメント性も含め、心から楽しんだ。

知的で魅力的な、AIホログラムのジョイに関しては、「her」からの強い影響は否めないだろうが、それでも、孤独なKの心情を表現する上で、とても効果的な存在だった。

たとえプログラムされたものだとしても、Kとジョイとの関係は本物だと信じられた。

手のひらに舞い降りた雪のように、儚くも消えてしまうふたりの純愛が繊細に描かれており、胸に響く。

雪の中、Kが最期に想ったのはきっと、ジョイのことだろう。

人間たちからは差別的に「スキンジョブ」(人間もどき)と蔑まれ、レプリカントたちからは「同類殺し」と罵られてきた、ブレードランナーのK。

彼は、自身のパーソナルな事柄と一致する、「女性レプリカントの埋葬場所の木に掘られてあった日付」「幼い頃の木馬の記憶」「木馬に掘られてあった日付」「自分が製造されたとされる日付」といった、偶然とは有り得難い符号が一致したことから、もしかしたら自分は、製造されたレプリカントではなく、レイチェルとデッカードという両親から、望まれた上で生まれた「奇跡の子」(聖書におけるイエス・キリスト)なのかもしれないと、希望を抱く。

危険を冒してまで、デッカードに会いに行ったのは、彼が自分の父親であるに違いないと、期待していたからだ。

が、それはKの大きな思い違いであり、実は「奇跡の子」の性別は、男ではなく、女であった。

ウォレスを代表とする、人間たちの手から「奇跡の子」の身を守るべく、元ブレードランナーであったデッカード、そしてレプリカントであるレジスタンスのリーダーの手により、その存在の痕跡が消されてあった上に、男女の性別が取り違えられるようにと、巧妙なミスリードが仕組まれており、さらに万が一の時の囮とすべく、「奇跡の子」の木馬に関する記憶がKに植えつけられてあったのだ。

深い孤独感の中で、希望の光が射したのちの、絶望。

自分は童話「醜いアヒルの子」における白鳥だったのだ、と希望を抱いた挙句、それは勘違いで、やはり結局は、醜いアヒルのままだった、と気づかされるのだから、残酷だ。

つまり、愛の結晶として生を受けた特別な人間「ジョー」ではなく、単なるダミー用の製造レプリカント「K」であったのだと、己のアイデンティティの在り方にも及ぶような、非情なまでの現実を突きつけられてしまうのだ。

しかし、それでも、たとえ己の希望がついえたとしても

「大義のための死は、何よりも人間らしい」

という言葉を胸に、たとえ「奇跡の子」の記憶を植えつけられた、ただの製造レプリカントであったとしても、この世に生まれてきた、魂のある、ひとりの人間として、最後の戦いに挑んでゆく、K。

人間よりも、人間らしく。

そうありたいと願う、Kの生き様、そして死に様には、震えるほどの感動を覚え、涙がこぼれた。

Kは、魂のある、人間である。

少なくとも、私にとっては。

そして、そんなKを演じたライアン・ゴズリングは、本当に魅力的な俳優だ。

どんな役を演じても、本物の喜怒哀楽が伝わってくる。

全体の尺やテンポに関しては、無駄に長いだとか、まったりしているだとか、そんな感想も散見するが、行間を読ませたり、緊張感を高めたりする為には、最良のものであったと思う。

様々な状況、そして、キャラクターの表情をじっくりと見せることにより、その心理や行動、関係性、先の展開を、こちらに想像させる余地を生み出していたので、圧倒的な映像美や重厚なサントラとあいまって、間延びしているようには全く感じなかった。

が、これは個人的な願望による蛇足かもしれないけれど、ウォレスに関しては、雪の降る中、あの可視化する為の小型ドローンを幾つも浮かばせながら、Kと決闘する展開を期待してしまった。

座頭市ばりに日本刀で。(格好良くないですか!?)

たとえ上演時間が20分長くなったとしても、ふたりには戦って欲しかった。

ちなみに、ウォレスによってナイフで腹を刺されてしまう、産まれたてのレプリカントを演じていた女優さん、まだきちんと首が座っていなかったり、小刻みに震えていたりと、身体表現でも表情でも、その産まれたて感が絶妙に表現されていて、素晴らしかった。

「ブレードランナー 2049」は映画館で観て「すごい…!」と感嘆したかった。

さらにはIMAX 3D版でも、なんなら4D版でも観たかった。

第90回アカデミー賞の受賞を決める権利が、もしも私に与えられていたならば、撮影賞と視覚効果賞の2冠だけでなく、作品賞、監督賞、脚本賞、主演男優賞と、幾つもの主要部門が受賞していたはず、と確信するほどの、大傑作。

続編を期待してるし、今度こそ必ず、映画館で観る。
たけひろ

たけひろ