むらみさ

カフェ・ソサエティのむらみさのレビュー・感想・評価

カフェ・ソサエティ(2016年製作の映画)
3.5
叶わなかった約束の方が甘い。


若く青々しかった頃から時が経ち、じぶんを囲む人びとも変わりじぶんの置かれる立場も変わり、、
それを成長と呼びある種の達成感も感じ、人生に成功したと感じ入っていても、愛が叶わなかったひとを目の前にすると一瞬でその頃のじぶんに戻ってしまうのは残酷だ。
青かったじぶんを知っている、虚飾も何もないじぶんを見ていてくれたひととの再会はとても甘い時間。
その名前のつけられない時間を描くためだけに大げさに嫌味に絢爛豪華に描写を重ねるウディ・アレンの手腕を、初めて堪能できた気がする。

なぜあんなにも騒がしい会話の応酬を見せるのか、嫌味なほどにスマートに見せようとする人間をたくさん描写するのか、
他人のゴシップや噂話が好きな人間のどうでもいい部分を際立たせるのか、
これまで理解に至らなかったこのウディ・アレン節がちょっと府に落ちたような。
最期のふたりの表情に、それがすべて集約していた。


叶わない恋はひとを大人にはしない、
ただ誰かを想うひとりぼっちなじぶんを浮き上がらせる。
この孤独な時間を、ひとつの映画を通して共有できる温かさに、少し救われる気がする。
むらみさ

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