emily

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3.7
 陽気で悪ふざけが大好きな父と、ルーマニアのコンサルタント会社でバリバリ働く娘とは正反対の性格ゆえ上手くいかない。あるとき父は娘に会いにドイツからルーマニアへ行く。何とか1週間いやいやながら父と過ごす娘だったが、帰国したにみえた父は今度はトニ・エルドマンと名乗り別人のふりをしてやってくる・・

 父と娘の関係はいつだってぎくしゃくしていて、上手くかみ合わない。そんな普遍的なテーマを笑いとユーモアを忘れない父親の手により、時に冷ややかに時に冷静なタッチをユーモアで包み込みながら、絶妙な二人の距離感を描いていく。娘は父の悪ふざけにことごとく呆れ、常にイライラしている。大事なのは仕事で、頭の中はその成功だけでいっぱいなのだ。それでも父のユーモアは容赦ない。しかしトニ・エルドマンという明らかに父親だが、別人が現れてから徐々に空気が変わっていく。異国の地で一人置いておくわけにはいかない。しかたなく面倒をみて、ことごとく呆れかえるのに、それも度を越すと笑いになっていくのだ。父は解雇まじかの男に「ユーモアを忘れるな」という。その言葉がのちのち娘にしっかりと響いてくるのだ。

 父は独自のユーモアで娘の心を温かく包み込み溶かしていく。ぴりついた表情の娘はあまり変わらないが、それでもすこしずつ心情に変化が現れ、そんな自分に周りにイラつき、絶妙な心情が行動や表情の一つ一つに繊細に描かれている。誕生パーティのエピソードは真剣なのかユーモアなのか、娘のアイデアは突拍子もなく、それでも父のユーモアがまた娘の心に光を刺すのだ。そうして見失っていた、生きる事、人と人との繋がりの大切さをそこに見る。親子の関係、苛立ったり辛くあたったり、そのすべてが相手が居るからできる事である。愛されてる事を知ってるからできる事である。トニ・エルドマンが残したメッセージは世代を超えて心に響く・・
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