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午後8時の訪問者のchiakihayashiのレビュー・感想・評価

午後8時の訪問者(2016年製作の映画)
4.3
 ベルギーの都市の郊外にある小さな診療所。診療時間を過ぎて鳴った呼び鈴に、医師のジェニーは応じなかった。翌日、身元不明の死体が発見されたと警察が来訪、亡くなったのは防犯カメラに映っていたアフリカ系の少女だった。ジェニーは彼女の墓を用意し、せめて名前を刻みたいと、少女の写真をスマホで街の人々に見せて回る・・・・・・。

 こんなふうに堅固な意志の力をもつヒロイン像が造型されたこと自体に、何よりも打たれる。

 ダルデンヌ兄弟の前作『サンドラの週末』のヒロイン(マリオン・コティヤール)は、挫けて自殺しようとするほどにか弱く平凡な女性でありながら、最後に自身の尊厳を守り抜く選択をする芯の強さを見せた。

 が、今作のヒロインのジェニーはほとんど表情を変えず、医師として、同時にひとりの人間として、自分がなすべきだと信じることを黙々と実行していく。

 有能な医師というプロフェッショナルならではの客観的にものごとを観る冷静さと、病気ではなく病人を診るが故に培わねばならない人間性。その両方を小さな身体に統合するヒロインをアデル・エネル(1989年生)が見事に体現している。
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