半兵衛

BU・SUの半兵衛のレビュー・感想・評価

BU・SU(1987年製作の映画)
4.0
ネガティブな学生時代を送ってきた人間にとってこの映画の主人公麦子の行動や感情は大いに共感してしまうはず、コミュ症とかそういうのではなくてただ単に人に合わせるのが面倒くさくて無理にポジティブになるのが嫌なだけという友達にはしたくないけれどそういう自分がいることは自覚している青春。

当時アイドル的な立場だったはずなのに東京に馴染めず暗い学生生活を送る主人公を無表情でリアルに演じきった富田靖子の良さが光る一作で(監督いわく自分のネガティブな部分を富田靖子が吸収して表現してくれたとのこと)、ある意味ルックスもさることながら演技力も高い彼女だからこそこの映画が成立したとも言える。

ボクサーに打ち込んでいる同級生・髙嶋政宏と親しくなる理由が普通の学園ドラマのように好意があるからとかではなくて、お互いのネガティブな部分に無意識にひかれ合っているのが👍️、そしてそんな二人がネガティブな心をぶつけるかのような炎上シーンにちょっと涙が。

主人公が住む東京・下町の風景を切り取っていくという市川準作品のスタイルはデビューの本作で既に完成されており、独特の叙情を作品から滲ませている。あと大塚周夫(海原雄山やねずみ男で有名な声優)や中村伸郎、品川徹といった通好みなキャスティングも監督らしい。

ラストの満面の笑みに心を持っていかれるけれど、確かにあれは別に性格が前向きになったとかそういうのではなく結局は一番親しい人だから出せたのでやはりいつもの彼女なんだよね。

ほんのちょい役で萩原聖人や田山涼成が出ているのも見所のひとつ。
半兵衛

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