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わたしは、ダニエル・ブレイクのmatsuitterのレビュー・感想・評価

2.5
イギリスの社会保障の制度のはざまに立たされた人々のヒューマンドラマ。ケンローチ79歳にして2度目のパルムドール。

地味だが非常に政治的なメッセージの強い映画。

見どころはリアリズム。

脚本的にはシンプルでテーマがストレートに伝わってくる。実直な男が病気になって働けない時に社会保障を受けられない現実的なケースを、本当に有り得そうな設定で描き出した。非人間的な官僚制度と隣人を大切にする生き方が明確に対比される展開は現代社会の陰と陽の一側面を浮き彫りにする。

申請の面談のやりとりはやや滑稽に見えるが、イギリスではもっとひどいケースでも就労可能と判断されるということを観終わった後から知った。

社会保障制度の解説はここらへんを読んでほしい。
http://www.newsweekjapan.jp/ooba/2017/03/post-34.php

http://luckynow.pics/i-daniel-blake/

職にありつけないシングルマザーが物語に厚みを持たせている。現状の日本に重なる部分もあり地続きな出来事として実感できた。

悪く言えば脚本、演技、撮影はとにかく地味。ストーリーには犯罪に巻き込まれたり衝撃の事実があったりするようなエンタメ性はない。ダイナミックなカメラワークもやらない。音楽もほとんど流れない。ほぼ曇りの日しかないのも印象的。

観ていて刺激が少ないというネガティブさもあるのだが、逆に言えばこの映画には嘘が一切ないということ。これによって圧倒的なリアリズムを実現している。

余談。

これがパルムドールなのだから、本当にヨーロッパ人はすごい。メッセージ以上に使命感すら感じる。世界情勢に明るくない私にははじめテーマにぜんぜん理解が及ばなかったし、こういう映画をどんどん観て語っていくことがとても大事だと思った。

たまたま健康に仕事ができている私のような人間はただ運がいいだけである。いざ同じ立場になれば同じことになる。笑えない。
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