LalaーMukuーMerry

わたしは、ダニエル・ブレイクのLalaーMukuーMerryのレビュー・感想・評価

4.2
イギリスの医療保険や失業保険制度の詳しいことは何も知らないが、同じようなことは日本でも起こっているんじゃないか? 他人ごととはとても思えない内容でした。お役所仕事批判、ケン・ローチ監督のこういう視点は高く評価したいです。
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俺はダニエル、ニューカッスル在住の59才、カミさんに先立たれて一人暮らしの大工。心臓発作が起きて仕事ができなくなったので国の病気支援手当を受けるために審査を受けに来たのだが、担当の女に心臓と何の関係もない質問ばかりされ、呆れてうんざりした。医者でも看護師でもなく医療専門家(認定人)だと。
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医者からは、このままリハビリを続けなさいと言われた。だが、しばらくしたら、病気支援手当の受給資格がないと手紙が来た。問い合わせの電話をしたが、全然繋がらない。繋がっても2時間近くも待たされて、やっとコールセンターと話ができた。医療専門家(認定人)の判断では俺は就労可能だから支給できないのだという。そんなバカな! これまで受給できていたし、医者からは仕事を止めさせられているのに。
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不服申し立てをすると言ったら、その前に義務的審査を申請してくれという、そこで同じ結論が出たら始めて不服申し立てができるのだという。その前に認定人から電話連絡があるから待てと…。だが認定人から電話などなかったと伝えると、それは変ですねと言ったきり。
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職業安定所に行って仕事を探そうとしたが、病気なら支援手当の審査を受けてくれと言いやがる(それでハジかれたからここに来たんだ!)。就労可能という評価なら求職者手当か不服申し立てだというから、両方の用紙をもらおうとしたら、オンラインしか受け付けないという。俺は大工だ、PCなんか使えない。では相談窓口に電話して聞いてくれと…。全く融通が利かない。めまいがしてきた…
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職安で俺と同じように係に冷たい待遇をされているケイティを見かけた。幼い子供二人を持つ若いシングルマザーだ。彼女の肩をもって職員に文句を言ったら、俺たちはオフィスから追い出された。ケイティはロンドンから引っ越してきたばかりで途方に暮れている。俺は彼女の手助けをすることにした・・・
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パソコンを始めて使うダニエルの戸惑いが、ちょっとユーモラスなのだけど、別の視点からみるととても残酷だワ。パソコンもケータイも次々と進化して、最近はついていけなくなっているから、身につまされる思い。静かに淡々とストーリーは進みますが、引き込まれます。おそらく認定人の心証を悪くしたせいで、受給資格を失ったダニエル。一旦資格を失うと、融通の利かないお役所仕事の中では取り戻すのは大変だ。次第に追い詰められていくダニエル…
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お役所仕事は、きめ細かく複雑になっているし、処理数も膨大になっているから、効率、公平のために機械的にやるのは仕方ないというのも、そこは認めるけれど、それでもあの冷淡な対応にはあきれるワ。
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本当に支援が必要な人には制度の存在が知らされてなく、申請書の書き方さえ分からない。一方で国の制度の裏をついて不当に支給を受ける(ように見える)人が少なからずいる、そういう人達は申請書の作り方もうまい。こういう人達と、杓子定規に処理しようとするお役所の姿勢とが相まって、本来あるべき姿の制度がダメにされているのではなかろうか?(作品には不正受給者などは出てこなかったけれど…)
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医療保険やら失業保険関係の仕事をしている人にはぜひ見てもらいたい作品でした。