こたつむり

わたしは、ダニエル・ブレイクのこたつむりのレビュー・感想・評価

4.0
♪引っこ抜かれて、あなただけについて行く。
今日も運ぶ、戦う、増える、そして食べられる。

先進国全体が黄昏を迎えている昨今。
かつて「福祉国家」と言われたイギリスも喘いでいるようですね。“寝室税”と揶揄されるような、低所得者を狙い撃ちにする政策は最たるものでしょう。

そして、本作の主人公《ダニエル》は。
国全体が足掻いている中、社会の濁流に飲み込まれてしまった老人。大工一筋で働き続け、税金を支払い、配偶者の介護に勤しみ、浮付くことなく生きてきたのに、些細な不幸から泥沼にハマってしまったのです。

それは、日本で言うところの生活保護申請。
しかし、コスト削減のための書類電子化や、虚偽申告防止のための手続きなど、複雑怪奇なシステムに翻弄されてしまうのです。確かに大局に立てば「多少の窮屈さは仕方がない」のでしょう。しかし、実直に働き続けた《ダニエル》が利用できない時点で間違っていると思うのです。

それを「仕方がない」と軽々しく言えるのは。
やはり、現場を見ていないから…なのですよ。
靴ひとつ、缶詰ひとつ、生理用品ひとつ。
生活必需品を手に取れない人たちの痛みを眼前にしたら、安易な気持ちで言及できない筈なのです。

だからこそ、彼は言いました。
「わたしはダニエル・ブレイク」と。
邦題はその叫び(原題)を直訳したものですが、もう少し煽る表現を選択するならば「ダニエル・ブレイク、此処に在り」となるでしょうか。

それは一個の人間として存在を示す宣言。
そう。僕たちは“ピクミン”ではありませんからね。働いて、働いて、働いて、用済みになったらポイッと捨てられる…そんな存在ではないのです(というか“ピクミン”の方が愛されていると言えるでしょう!)。

まあ、そんなわけで。
単純だけど奥深いタイトルの向こう側を見ましたからね。ガラにもなく社会派を気取りたくなる作品でした。もうね。節税に勤しむ富裕層には“ルドヴィコ療法”で本作を刷り込みたいと思いましたよ。

そして、本作の舞台はイギリスですが。
日本だって“対岸の火事”を気取れません。
いつ何時、自分が不幸に合うのかは判らないのですからね。「全ては自己責任」なんて某国の潮流に流されていると…いつかは痛い目に合う気がしますよ。
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