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わたしは、ダニエル・ブレイクのan0nym0usのレビュー・感想・評価

4.5
今こそダンケルクスピリットが必要!
なんて啖呵はさておき…(苦笑)

崩れ落ちそうな大事なものを、必死で押し留めようとしている…そんな作品。

これは紛れも無く傑作。まさに必見です。

ケン・ローチ監督が引退を撤回して描いた…それだけこの題材に熱意を持って臨んだというのが、ヒシヒシと伝わってくる。彼が映画作りの中で何に寄り添い、描こうとしてきたかを窺える作品でした。

主要人物はたった2人。

心臓を患った事で職を失い、生活保護を求める立場になった主人公ダニエル。そして同じく生活保護を必要とする移民系のシングルマザーであるケイティ。

それぞれの生活という最小限の描写…なのに最大限に伝わってくる。

冒頭、失笑を誘う会話劇があります。でも、要所で繰り返されるそのルーティンが続く中で、画面から感じる圧力が次第に強くなっていく。本気で笑みを失います。

財政赤字を削減する為に、弱者が切り捨てられている現実…彼等は最低限の保障さえも与えられない。言い換えるなら、社会で生きる権利が与えられていない。

僅かな保障の為に、働けない身体で職を求めて放浪するダニエル。飢えに耐えられずフードバンクで与えられた食糧をその場で貪るケイティ。

私はやはりケイティの姿に心が揺さぶられてしまいました。子供たちを養わなきゃいけない責任を負い、廃屋のような住居を充てがわれ、まともに食事も取れない上に生理用品さえ満足に得られない。

靴が壊れてるからと娘がイジメを受け、新しい靴を買ってやると言ったら、お金がないと娘に言われてしまうシーンは…本当に心が砕け散る気分だった、

今作はイギリスの緊縮財政の現状に対する痛烈な批判でもあるけれど…それだけを描いている訳じゃない。

そんな状況でも、ダニエルはケイティとその子供たちの助けになろうと、暖の取り方などの知恵を与え、手作りの玩具で気を紛らわせてやり、支えようとしました。

ダニエルの優しさや行動は尊い。
なのに…現実を前に、あまりにも脆い。

どうにも苦し過ぎて、身動ぎできなくなった…許されるなら、泣き叫びたい気分。
私の内面的恐慌を尻目に、状況は淡々と悪化していく。

どうにかして守ろうとしたものさえ、ボロボロと零れ落ちていく…それが悔しくて、涙が止まらなくなった。

ある事で踏み出せなくなったダニエルが…やはり断ち切れなかったのは優しい心。

そこにラストシーン。
ダニエルの書いた文面が…
痛烈に胸に刺さる。

私達は番号じゃない。
社会に飼われる犬でもない。

…人間なんだ。

私も、人間でいたい。
人を人だと思っていたい。

これはイギリスだけの問題じゃない。
メッセージというより、警鐘。

個人から遠ざかっていく社会。
失われていく尊厳。

想いだけでは解決できない。
でも、想いもなくては解決できない。

ダニエルが代弁した弱者たちの慟哭。
動き出せというエール。

未見であるのなら、ぜひ観てもらいたい。
多くの人が観て、考えるべき問題。

興味を持ってくれるのなら、今作に関わるイギリスでのエピソードなんかも、調べてみてもらえればな…と思います(*´꒳`*)

私には今作が2017年の映画納め🎬
今年もたくさん良い作品に出会えた事と、フォローしていただいた皆さんに感謝✨

それでは皆さん…
よいお年をお迎えください🌅
また来年も、よろしくお願いします😊
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