まっつん

わたしは、ダニエル・ブレイクのまっつんのレビュー・感想・評価

4.0
ケンローチ監督が引退を撤回して作り上げた傑作。カンヌではパルムドールを取りましたね。

まず本作はハッキリとキャメロン政権の緊縮財政を批判していると思います。2010年以降からキャメロン政権は財政赤字解消のために福祉予算を大幅に削減してきました。よって貧困層の生活状況は悪化の一途を辿っています。

冒頭から本作の主人公、ダニエルと行政職員の会話から始まります。ここのやり取りとかもうほとんどコメディですよね。ダニエルが苛立つのもよく分かります。どう苛立つかというともう徹底した水際作戦の連続でシステムにコミットさせないように話を進めていくと。「揺りかごから墓場まで」と言われたのは遥か昔の話。イギリスは今では「指が一本でも残っていれば働かされる国」と揶揄されるようにまでなってしまいました。

本作は官僚制の非人間性をあぶり出していきます。冷酷に切り捨てるだけならまだしも、彼らは煩雑かつ無意味な手続きによって弱者を疲弊させ、人としての尊厳を失わせてしまう。「働けない」事を「働かないこと」へと巧妙に論理をすり替え、その責任を本人に取らせる。確かに本作のダニエルが全て正しい人物とは言えません。見る人によっては彼は正しくないかもしれない。頑張りが足りないかもしれない。だからといって救いの手を差し伸べないばかりか、人としての尊厳までを踏みにじる権利は誰にも無いはずです。

そんな中でダニエルが発する「人間」としてのメッセージは非常に胸を打つし、「人間は個人として尊重されるべきだ」という当たり前の事を思い出させてくれるという点で素晴らしいとしか言えない出来になっていると思います。