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わたしは、ダニエル・ブレイクのKKMXのレビュー・感想・評価

4.3
ケンローチらしい、シビアな話でした。ガーエーとしてはもちろん説得力抜群。

とにかく本作はわかりやすいですね。イギリスの福祉制度のクソさを告発し、尊厳を踏み躙る新自由主義社会への鮮烈なカウンターパンチを食らわす、どキャッチーなプロレタリア映画でした。逆に言えば、どキャッチーすぎて考察のしがいはあんまりないです。


しかし、あの福祉システムはなんなんですかね?病気で働けないのに週35時間の就活を義務づけるとは。あまりにもめちゃくちゃで笑ってしまった。まぁ政府をちっちゃくすればするほど福祉には金が降りてこないので、あの手この手で給付金をカットするのが目的なんでしょう。地味に電話が繋がらないで何時間も待たされるのも酷い。
オープニングでダニエルが給付金受けられるかの問診票を書かされるのですが、その審査しているのが委託されたナゾの医療従事者。ダニエルが医者か看護師か、と聞いても『医療従事者』(関係者だったかも)と答えるのがツボでした。正体不明すぎる!
福祉局で働く役人の判を押したようなお役人っぷりも酷すぎて笑ってしまう。ケンローチってこういうステレオタイプ表現好きね。ただ、アンさんという職員だけは、システムの非人間さを認識しつつ、その中でもなんとか給付金を捻り出せるようダニエルに働きかけてました。このシステムでは、頑張ってもアンさんの態度が限界でしょうね。
終盤で弁護士が登場して、役所の対応について医療関係者がみな怒っているとダニエルたちに伝えるエピソードも笑えます。役所アホすぎる。
このように、本作で描かれているイギリスの福祉システムは酷すぎて笑うしかないレベルでした。じゃあ日本は、と問われると、ムムムと絶句してしまうので、新自由主義はマジでクソとしか言いようがない。

個人的にはダニエルよりもシングルマザーのケイティが悲しかった。子育てがあるから仕事に制約も出てしまうし、そうなると夜の方に行ってしまうのも無理ないです。フードバンクのシーンは切なすぎる。本当に複雑な気持ちになりました。

ケイティ親子とダニエルの交流は心温まるものがあり、実際にそれが互いの孤立をギリギリで阻止しているようにも感じました。そこに救いがあるようにも見えますが、その交流のチャンス自体がなくなりかけているので、それもまたしんどい。
それから、状況が窮すると友人関係の維持が難しくなるんですよ。本作でもダニエルが友人の飲み会を断るシーンがありましたし。酒がドクターストップだから、と言い訳してましたが、窮状を見せたくないんでしょうね。地味なシーンながら、人が孤立していく瞬間が描かれているように思えて、なんともリアル…と絶句してしまった。


ダルデンヌ兄弟の『ロゼッタ』は、上映後に世論を動かし、ベルギーの未成年者の労働法が改正されました。本作もそのくらいのパワーがあるので、リアル面が変わっていく可能性もあるのでは、と思ってます。

何作か観ただけの印象ですが、ケンさんは映画を作ることで、世論を刺激したり、立ち上がろうとする個人の後押しをしているのだろうなぁと想像してます。少なくとも、本作と『家族を想うとき』はそれを狙って作ったように感じます。ステレオタイプすぎて過剰に煽られすぎているきらいはありますが、ロスジェネ世代として貧乏クジ引いた身からするとToo Muchくらいが丁度良いです。ラスト、ダニエルの言葉には胸が熱くならざるを得ない!

本質を忘れず立ち上がれ!
Get up, Stand up,
Stand up for your rights!
Get up, Stand up,
Don't give up the fight!

イイネ!イイネ!イイネ!
KKMX

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