2級蘊蓄士

わたしは、ダニエル・ブレイクの2級蘊蓄士のネタバレレビュー・内容・結末

3.4

このレビューはネタバレを含みます

以前、公的扶助を全て生活保護のもとに置いてしまえばいい、と言っている人がいた。生活保護を受けていると知人隣人に知られれば、肩身は狭くなる。それゆえにある程度余裕のある年金暮らしの老人や労働意欲のない人が受給をためらうというのが主な理由だった。いずれにしても、支給されることで尊厳が傷つく公的扶助はある。
それはさておき、財政難に瀕した英国政府は社会保障費の削減をすべく、新たな施策に出た。
一つ目は窓口対応する人と、受給可否の審査をする人を分けること。これで点数不足を口実に申請受理を無理ゲーにすることができ、窓口スタッフは専門家の判断と言って逃げることができる。
二つ目は受給区分の細分化と複雑化。すなわち働けない人に対して支給を申請するための窓口をワンストップで用意するのではなく、受給理由を区切って自分がなぜ働けないのかの理由ひとつを選ばされる。曖昧な理由や症状は許されない。考えてみて欲しいのだが、体の健康と心の健康の両方が弱っているときは、どちらかが満タンのときよりも、なんにせよするのはしんどい。窓口が一つなら合わせて一本で受給資格を得られていたこともいろいろな理由をつけて「あなたは支給対象外だから別の申請をして」と不認可を突きつけられて、受付窓口をたらい回しにされる。
たらい回しについては以下を参照のこと。
https://ja.uncyclopedia.info/wiki/%E3%81%9F%E3%82%89%E3%81%84%E5%9B%9E%E3%81%97
3つ目はデジタル化だ。これによって厚生局の職員の業務軽減、関連機関(病院など)への連絡などのコストダウンなどが図れる。一方で、ITリテラシーの低い年寄りなどはここから排除されてしまう。
これ以外にも施策はあり数えたらキリがないが、上記3点に共通して言えることは冒頭に示した通り、社会保障費を削減することで、全てその方向に作用している。給付を認可しないのが彼ら彼女らの仕事であり、申請を手伝おうものなら職員としての評価は下げられてしまうのである。受給申請を途中で諦めさせれば、不受給の事由を政府とすることなく社会保障費を削減することができる。その過程で様々な副作用が出ようとも。受給しても尊厳が傷つけられるのに、申請をしても受理されないのはさらに存在を否定されているようで、なかなか見るのは堪える。
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