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ローサは密告されたのTOTのレビュー・感想・評価

ローサは密告された(2016年製作の映画)
4.0
飴やアイスと同じように小分けされる麻薬、道徳も愛も全てが紙幣に変えられる、警察も法律も守ってくれない、血の繋がりだけがセーフティネットの街。
ローサとその家族、スラムの人々、警察のやり取りを淡々と重ね、貧しさゆえに失われた、隠されていた感情のうねりが徐々に大きくなってラストに結実する。
そこに生きる人々だけでなく、舞台となるスラムにも人格を宿すように、上下左右自由に動く視線は多彩かつ客観的だ。
手持ちカメラによる映像は、スピード感溢れて実録ものっぽさを醸しつつ、視点の切り替えや編集の妙味、スラムに立ち込める煙のような空気と光の揺らめきも加わり、生々しいけど美しい(しかし酔う)。
パンフレットには、雑踏と車の音、スコールの混ざりあうノイズ音はポストプロダクションで強調されているとあったけど、映像も撮影時の被写界深度の浅さに加えて後からボケみを加えてる部分もあるのではと思ったけど、どうだろう?
ただそのまま漫然と撮っただけでなくリアルさを装いつつ劇的に見せる撮影後の処理が巧みだなぁと感心しながら見た。
この作品で描かれる人々のように、フィリピンの80%は貧しいと語る監督。
あなた絶対20%側じゃんと思うけど、その20%側の映画人だから撮れる、憐憫に陥らない冷静さ。
私は好きでした。
新しさでは『ダイ・ビューティフル』に軍配があがるけど、巧みさはこちら。
先日はレインボーリールで『たぶん明日』もあり、10月にラヴ・ディアス新作も公開。
フィリピン映画界の発信力の高さいいな〜豊かだな〜。
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