Gewalt

ローサは密告されたのGewaltのレビュー・感想・評価

ローサは密告された(2016年製作の映画)
4.3
手持ちカメラというのは構図の美しさを損なうし俳優達の演技を十分に追えないことがあるのであまり好きではないが、こういう作風ならば手持ちカメラでなければ駄目だということに強い説得力がある。蔓延する麻薬とそれを取り締まる警察の腐敗という、今フィリピンにある現象をそのまま切り出したかのような本作にドキュメンタリータッチの画造りは極めて効果的だ。手持ちカメラの映像はそれに対して適切に作用してくれる。

実際にあるものをそのまま映したであろう、スラム街の映像は圧巻だ。第一幕ではそこにいる人々の暮らしと貧困、そしてそこに警察が立ち入る瞬間の緊張と衝撃を容赦なく突き付けてくる。特に雨が降りしきり鈍い光に包まれたスラム街は幻想的な美しささえ感じられる。
警察の取調が始まる第二幕は警察の粗暴さと腐敗が描かれる。「正規」の警察と区別される、制服を着ていないあの警察達は何なのだろうか。民間の協力者で半官半民の組織なのかと鑑賞中は思ったが、何れにせよカメラは警察の傲慢で堕落した有り様を我々に強く印象づける。
家族が再生へと向かう第三幕。両親の保釈のため、子供達は金を集める。やはりそういうこともあるのかと思わせるフィリピンの一面を覗かせながら、物語は終わりへと向かう。物語の前半のやり取りと対になる、ラストのある会話は荒んだフィリピンの中にある一筋の希望を見せている。

フィリピンにおいて現実に進行していることを「リアル」に伝える本作は、独自の手触りの映像の中に万人に伝わる衝撃を秘めている。
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