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ローサは密告されたのUCOCOのネタバレレビュー・内容・結末

ローサは密告された(2016年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

 貧困率22%のフィリピン。その首都マニラに形成されたスラム街でローサはサリサリストアを経営しながら一家六人で貧しい生活をしていた。“sari-sari” とは、タガログ語で “ 多様な ” という意味である。この店ではその言葉の通り、様々な商品が販売されていた。厳しい家計のため、少量の麻薬までもが売られていたのだ。
 雨季真っ只中の8月、ローサは密告され、夫と共に逮捕される。連行された警察署で彼女が目にした光景は悲惨なフィリピンの現状そのものだった。高額な保釈金を要求されても、もちろんそんな額は払えるはずもなく、金の代わりに誰かを密告する他、選択肢はないのだ。黙秘権などあったものではない。捜査というの名のもと行われる尋問は恐喝まがいで、警察は当たり前のように押収した金に手をつけては私服を肥やす。暴力ですら全くいとわないのだ。何度も何度も「豚箱行きだ。」と脅されるローサたちだが、そこは既にブタ箱の中と何ら変わりはない。いや、それ以下なのかもしれない。法など全く機能しないその場所で、ローサたち家族は腐敗した警察に自分たちのスタイルを貫きながら、立ち向かうのだった。
 麻薬の売買は隣近所が対象だ。ローサが麻薬に関わっていたことも周知されていた。同じ場所が何度も映し出されることでコミュニティの狭さが演出されていて、それは即ち、「密告」の重要性を物語る。その輪の中にいる以上、密告してしまえば今後は周囲の顔色を伺って生きなければならない。
 本作は実際のロケーションやその場に実際にあったものが用いられ、強烈なリアリズムが印象的である。また、手持ちカメラによって映し出される映像とスラム街の背景は相まって気分を害させる。 
 まるでドキュメンタリーのようなこの作品を見て、「これがフィリピンのリアルなのだ。」と定義づけることは容易である。しかし、本作で着目すべきはその厳しい現実の中にも存在する人々の暖かさだ。ブリランテ・メンドーサ監督の作品は、多くがフィリピンの学校で教育の一環として取り扱われているそう。そこで、実際に現地に住む子供たちがこの作品に触れた時、感じることとは何だろう。フィリピンの子供たちと同じ視点に立つことこそ、恵まれた国で暮らす我々日本人にとっては簡単なことではない。しかし、その点を意識してこの作品を見ると作品の注目すべきポイントに気づくことができるように思う。
 『ローサは密告された』は、フィリピンのマニラだからこそ撮ることができた、社会へ強烈に問題を投げかけている素晴らしい作品である。
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