MasaichiYaguchi

エリザのためにのMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

エリザのために(2016年製作の映画)
3.7
親ならば、子供の幸せを願うのは当然のことのように思えるが、本作の主人公で外科医師のロメオの場合は不正をしてまで愛娘エリカのために奔走していく。
彼が道を踏み外すようなことをしたのには訳がある。
それは、エリザがイギリス留学という前途ある未来に一歩踏み出そうとした矢先に災難に遭ったため。
この作品の背景を理解するには、舞台となったルーマニアの国情をある程度知っていた方が良いかもしれない。
何故なら主人公をはじめとして作品にルーマニアの“負の部分”が影を落としているから。
その影の発露のように映画の冒頭からロメオ一家は謂れなき不幸や災難の数々を被っている。
一家の大黒柱として、そして父として人生の正念場を迎えた娘のためにあらゆるコネを利用して不幸からのリカバリーを図ろうとするロメオ。
だがロメオ自身も、愛人と妻との板挟みや、娘のためにした不正に対する追及の手が迫って正念場にいる。
果たしてロメオはエリザを無事にイギリスに留学させ、自身が招いたピンチを凌ぐことが出来るのか?
そしてロメオ一家に災いをもたらした者は何者なのか?
ロメオ同様我々観客も作品の五里霧中を手探りで彷徨うことになり、モヤモヤとスッキリしないしこりが残る。
原題は「卒業」を意味する。
映画のラストで卒業式が登場するが、恰もエリザが高校を卒業するだけでなく、親の庇護からも卒業するように見える。
親が思うより子供はしっかりしていて自分で大人になっていく。
そのエリザの姿に一条の光のようなものを感じた。