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エリザのためにのslowのレビュー・感想・評価

エリザのために(2016年製作の映画)
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人々は目を瞑り、人生の細部にまで気が回らない。その場しのぎの安易な結託が横行し、その積み重ねが不衛生で野蛮な社会を構築している。劇中に見るルーマニアはそんな国だった。思い出してみれば、前々作の『4ヶ月、3週と2日』の頃とそれ程変わっていない。

娘を大切に想う父。一体どれだけの人が主人公である父親の行動と心情に、賛同や共感をできるだろうか。観客を試すように、父親をにおう人間に見せる辺りがムンジウ監督らしい。
署内での長回しや、この系統の作品でよく見る車内からの映像。相変わらずの曇天空と野良犬達。ドキュメントと見紛う作り込みや演出には、もはや風格すら漂う。反面、賞の獲り方を心得た映画のようにも感じられたわけだけど。

暗黙の世界。町を歩けば同じような面をした人間はごろごろといて、脆い表層が割れることにも鳴り止まない警報にも、やがて鈍感になっていってしまう。それはこの国の治安や悪習が見せ陥れる幻覚なのかもしれないが、監督のメッセージはその一歩先を行っていた。
目を凝らせ、未来は信じ続ける者の目に写る。
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