Ren

お嬢さんのRenのレビュー・感想・評価

お嬢さん(2016年製作の映画)
4.5
素晴らしかった。官能的で耽美的でかつエンタメとしても文句無しに面白い。詐欺師が登場する騙しの映画、コンゲームものを知りたての頃のあの感覚を思い出させてくれた。

よく映像美が抜きん出て素晴らしい映画には「絵画のような/写真集のような」という言葉が使われるが、今作はまさに全シーンが計算され尽くした芸術と言っていい。
美術も撮影も美しい上に構成も非常に分かりやすいのでパク・チャヌクの中でも間口が広くおすすめしやす....そうだけど官能が過ぎるので結局安易には勧められない。ベッドシーンはエロいけど汚らしさは一切無く、『アデル、ブルーは熱い色』が頭をよぎった。

近年でこそ『プロミシング・ヤング・ウーマン』や『ラストナイト・イン・ソーホー』のような色合いのガールズエンパワーメントムービーが立て続けにヒットしているけど、その潮流の先駆けが今作だったのでは?
女性を性的対象として使う男性から、下劣でキモい目線を向けられる人々の話。メインキャラクターが少なく 一見クローズドな話だけど、クソなマチズモそのものに鋭くメスを入れる物語になっていた。女性に官能小説を朗読させて「体位が分からないねえ」とか言う下衆のキモさ。

随所に見られるヘンなユーモアも、作品をどんよりとした重たいトーン一色になることを抑えていて好印象であった。どの角度から見ても抜かりの無いマスターピース。官能とか痛いのが苦手でなければ観てほしい一作。

【余談】今作のベッドシーンを撮るにあたって、「徹底した絵コンテの作製と着衣でのリハーサル」「現場からは監督すらも離れ 無人カメラ&最低限の女性スタッフで撮影」「アロマとワインを置いたリラックスできる前室を準備」、さらに官能小説の朗読シーンは「基本男女別々に撮影」「俳優のリアクションを合わせなければならないシーンの朗読は男性が担当」などのルールを徹底したそう。



《⚠️以下、ネタバレ有り⚠️》










韓国映画といえばの「復讐」要素が、前述のような性的搾取の構造への反抗として機能していた点が素晴らしい。もちろんそれ自体もサスペンスとして面白く、スッキが第一幕と第二幕で 仕掛け人→被害者→仕掛け人 と役割が変わっていく様も鮮やかで無理がない。
侍女と令嬢は身分を超え、社会への復讐者として対等に結託していく。今作のベッドシーンが美しいのは、画づくりなど技術的な理由の他に、男女が対等に渡り合えない(女性は男性に 使われる・搾取される)世界の中で上下関係の無い2人が交わっている、という構造的な理由もあるのかなと思ったりした。

ハ・ジョンウ演じる伯爵が「チ○ポ切られなくてよかった」的な捨て台詞で死んでいくところまで完璧。あまりに露骨な男根主義価値観のしょうもない時代・世界の話だ。もちろん、現代にもこの思想は少なからず深刻に残っている。
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