めい

お嬢さんのめいのレビュー・感想・評価

お嬢さん(2016年製作の映画)
4.2
【祝】英国映画アカデミー賞(BAFTA)にて、「お嬢さん」が外国語映画賞受賞とのこと。おめでとうございます。
これを機に、以前上げた感想に付け加える形で、再度UPします。

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 原作サラ・ウォーターズの『荊の城』から映画化された本作だが、舞台を英国から1930年代の日本植民地時代の朝鮮半島へと移すなど、大胆な脚色を加えている。パク・チャヌク監督は(『オールド・ボーイ』等がその典型だが)、同じモチーフや構図を、繰返し何度も別の視点や、別の人物で撮ることにより、映画の中でそのモチーフが持つ別の意味や過去、新たな真実を印象づける手法を用いてきた。だが今回は、物語を三部構成にすることで、世界を3つの視点に分断し、ジグソーパズルのような、ミステリ的要素で多角的な視点を映画で実現しようと試みている。だが、それはこの映画の魅力の一面でしかない。私が『お嬢さん』を好きなのは、女性の官能を描いた映画であること、また、女性達が支配と抑圧に反旗を翻す物語であるという点だ。
 私と同世代の映画好きな女性達の間では、本作品は90年代の名作アニメ『少女革命ウテナ』を引き合いに出して語られる事が多いのだが、まさしく『お嬢さん』は女性が囚われのお姫様を助け出し、広い世界へと飛び出すという意味において、『少女革命ウテナ』に通じるガールズムービーである。
 詐欺の一味であるスッキは、同じく詐欺の藤原男爵と手を組み、朝鮮人の叔父である上月と暮らす日本人の令嬢・秀子の元に、メイドとして奉公に出る。秀子は日本人ではあるが、幼い頃から朝鮮で育っている為、日本語と朝鮮語のどちらも解す。スッキは秀子の傍で、秀子と藤原が恋に落ちるように手を回す予定だったが、美しく孤独な秀子の境遇に同情を覚え、つい親身に接するようになる。そして二人の仲が深まるにつれ、いつのまにかスッキは秀子に想いを募らせていく。
(※以下ストーリーの核心的な部分に言及します)
 朝鮮人でありながら、日本人の名前を名乗る秀子の叔父の上月は、秀子を事実上屋敷に閉じ込め、宗主国である日本の春画やエロチックなポルノ趣味に耽り、そしてその幻想を秀子に背負わせている。上月は定期的に主催する「朗読会」で、秀子に美しい着物を着せ、自分好みの日本女性を演じさせ、出席者である紳士達に向けて、官能小説を読ませる事で、己の変態的な性欲と権力欲を満たしている。
 この朗読会を通して見えてくる構図がある。云わば秀子は、男性から女性へ、そして宗主国である日本から植民地である朝鮮へ……ジェンダーと国、二重の意味で支配と抑圧を受けている犠牲者であるということである。
 ところで、よくこの映画の欠点として挙げられる点として「出演する韓国人俳優達の日本語のセリフが分かりづらい」というのがある。しかし、私は「宗主国である日本が植民地に押し付けた言語(だった日本語)」を、朝鮮語を母語とする俳優が喋り、演じる事に意義があると思っている。
 秀子は上月から命じられるがままに、彼の欲望の道具の役割を果たしてきたが、秀子自身がそれにより欲望を感じた事はなかった。上月でも藤原でもなく、彼女の悦びを目覚めさせたのは、秀子の心に寄り添おうとしたスッキであり、スッキによって秀子は自分の身体と心を解き放たれる。そして、秀子はスッキと手を取り合い、忌まわしき屋敷から逃げ出すのである。
 R18指定を受けている通り、たしかに秀子とスッキのセックスシーンは刺激的で大胆だが、男性の目を意識したポルノの撮り方とは一線を画している。最初、色事を経験したことがない秀子を導く形で、スッキが主導権を握る。スッキの愛撫を受けるうち、秀子の中に秘めていた情欲の炎が目覚め、秀子は自らスッキを求め、今度はスッキが秀子に翻弄される。そして二人はどこまでも深い快楽の渦へと沈み、互いの身体と心を一つにするのだ。ここでカメラが映しているのは、美しく絡み合う肉体の性行であるが、それによって描かれているのは、二人の関係性であり、秀子の――つまり女性の――魂と身体の解放である(※1)。
 国や国籍もを飛び越えて、何重もの支配から逃れた秀子とスッキは、新たな世界へと旅立っていく。二人が目指したその先には、きっと眩い光が待っている。そう願ってやまない。

(※1:後に知った事だが、このシーンはかなり配慮したやり方で撮られていた。撮影時、演者二人の周りには最小限の女性スタッフしかいなかった(監督は別室で画面で見ていた)等のエピソードを知り、役者達の心情を慮った監督のやり方に尊敬を覚えた。同様に女性同士のセックスシーンを扱った『アデル、ブルーは熱い色』で、主演女優のレア・セドゥから撮影方法を批判された、某監督との違いがすごい…)


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◆以下2017/07記載内容
「退廃的で耽美な上質エロティックミステリー」

舞台は1939年日本統治下の韓国。詐欺師の少女スッキは、同じく詐欺師である藤原伯爵から、莫大な財産を相続した令嬢秀子を伯爵に恋させ、駆け落ちする手引きを求められ、秀子の豪邸へ侍女として侵入する…。スッキは珠子という名を貰い、侍女として献身的に秀子の世話をするうちに、その美しさと孤独さに惹かれるようになり、藤原伯爵に嫉妬を覚えながらも、彼との仲を取り持つ。やがて伯爵の計画通り、伯爵と秀子とスッキは屋敷を逃れて、日本へと渡る。しかし、それは裏切りに次ぐ裏切りの序章だった…。
 とにかく上質な官能ミステリーだった。物語は三部構成で、謎パート→回答パート→後日談となっていて、時系列が交錯し、謎が明らかになるかと思えば、更なるどんでん返しが起こる…といったように、巧みな構成で観客を惹き付ける。絢爛たる美術や衣装も見事で、耽美で頽廃的なエロスに酔えた。
 閉じ込められたお姫様を救うのは王子様ではなく女性…という点では、アナ雪や、かつての少女革命ウテナに通じるテーマを持った作品で、観た後は爽快だった。
 フェミニズムを感じるテーマでありながら、変態的で耽美でエロティック。今までの映画にはない新しい境地に触れた心地がした。
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