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セールスマンのtakeman75のレビュー・感想・評価

セールスマン(2016年製作の映画)
4.1
ある日、突然妻を「傷物」にされた夫の「屈辱」、そして事件の被害者である妻の「恥辱」は、果たして何によって「浄化」されるのか。『別離』のアスガー・ファルハディ監督が突き付ける、あまりにも重い宿題に、観終わった後もしばし呆然。イスラム教では強姦を受けた女性も犯人同様、罪に問われる場合もあり、警察に捜査を依頼する事ができない…って、形は違えど「今」の日本も同じ様なものなのは、昨今のニュースでも明らかな通り。
エドワード・ヤンやポランスキーの諸作を思わせる「不穏」な空気の中で、近代的な西洋文化の暮らしと、旧態依然とした「倫理」が隣り合わせで成り立っている、イランの都市生活が興味深い。そこに一旦「亀裂」が入ると、修復する術を知らない彼らの姿を、果たして「他人事」と突き放せる者など居るだろうか。
ちなみに『セールスマン』というタイトル、劇中で主人公がアーサー・ミラーの戯曲『セールスマンの死』を演じている事にちなんでいて、正直観ている間はあまり主題との共通点を見出せず、多少戸惑いを感じた。しかし次第に本作が纏っている夫婦の「仮面」と、舞台で「演じる」事の共鳴に気付くと、胃の辺りがグッと掴まれる様な気持ちで、居たたまれなくなる。ファルハディ先生、今回も本当に底意地悪いです。
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