ノラネコの呑んで観るシネマ

セールスマンのノラネコの呑んで観るシネマのレビュー・感想・評価

セールスマン(2016年製作の映画)
4.7
ファルハディ、さすがの面白さ。
アーサー・ミラーの「セールスマンの死」を、イランで上演しようとする夫妻が主人公。
ある日、夫の留守中に妻が暴漢に襲われる。
躍起になって犯人を見つけようとする夫と、恐怖から事件と向き合えない妻の間には、次第に溝が生まれてくる。
妻のためと思いながら、夫は自分の心に決着をつけるために、復讐に走っていることに気づかない。
戦後アメリカの社会分断を描いた戯曲が、現代イランの分断の背景となる。
もちろん内容は全く違うが、ラストまで行くと、なるほど両作の描いているテーマに共通性が見えるのは見事だ。
主演のシャハブ・ホセイニとタネラ・アリシュステイが素晴らしく、二人の葛藤がぶつかり合うと強烈にキャラが立つ。
人の心の機微を、丁寧にすくい取ってゆくスタイルは健在。
「セールスマンの死」は知らなくても楽しめるが、知っていた方が確実に深みを感じるだろう。
しかし、本来なら米国からイランへ繋がる素晴らしい創作の連鎖なのに、トランプ政権の愚かな政策の結果、分断の象徴となってしまったのは皮肉。
まあそのおかげで、本作の描いていることはより際立ったかも知れないけど。
ブログ記事:
http://noraneko22.blog29.fc2.com/blog-entry-1027.html