アラサーちゃん

セールスマンのアラサーちゃんのレビュー・感想・評価

セールスマン(2016年製作の映画)
4.0
🎬
こうして人生の一幕は閉じていく、次の幕を残して
【セールスマン】
2016年、伊蘭。

予告は見てない、どこかであらすじを読んでいたら「妻を襲われた男が犯人を追う心理劇サスペンス」と謳われているから、てっきりミステリー系なのかと思っていたら全然違ってた。
ありそうでなかった角度から、人間の心情について考えさせられるいい社会派ドラマだった。

と言っても、重く暗いものではなくて、主人公が平凡な男で、どこか親近感が湧いて自分に置き換えて観やすかった◎
妻に降り掛かった災難がトリガーとなって、自分の闇な部分と葛藤する。愛とか道徳観念とかそういうものをギュッと凝縮して。

自分ならいったいどんな選択肢を取るか?
この一幕のラストをどう描くか?

登場人物みんなに当てはまる。まるで寸劇のような人生の一部、あなたならどんなラストを迎えますか?そんな問いかけをされてるような気がした。

舞台とシンクロさせながら描く構成から、どうも「オールアバウトマイマザー」にどこか被らせながら観てしまった自分。
「オールアバウト~」も、中身の「欲望という名の電車」も好きですが、そちらよりもより舞台と本編との内容のリンクが明確で、本編の演出も、舞台を意識することで楽しく観られた気がします。タイトルも深いんだね。

前半、犯人探しのくだりは結構飽きていたんだけど、いやもう後半の犯人が明らかになってからの面白さたるや。これは引き込まれた。
登場人物それぞれの人間性がグッと一気に深く切り込まれてきて、その葛藤に胸が痛くなる。各々の立場でひとつひとつのシーンを咀嚼しようとすると、どうしてもお腹いっぱいになってしまうっていうくらいのそれぞれの静かにほとばしる感情の衝突が素晴らしかった👏

そんでとになくいいシーンだらけなの。
主人公が車に○○を取りに行った時に、その場に残された人たちのシーン。
窓から○○を見下ろす主人公の心の脆さがひび割れたガラスでうまく描写されたシーン。
で、ブレーカーを落とすシーン。

前半もなかなかサスペンスらしくいいシーンだったな。窓割れたり、玄関の扉がゆっくり開いたり、バスルームの下に血があったり、含みをもたせたシーンがたくさんある。
1950年代のアメリカ「サイコ」のように、検閲も厳しいんだろうが、それでもサスペンスらしく「あからさまに匂わせる」ところが、なんとも古典サスペンスっぽくて面白かった。

それにしても終わり方も名作ですね、わたしの好きな匂いがぷんぷんするよねー。