えいがドゥロヴァウ

セールスマンのえいがドゥロヴァウのレビュー・感想・評価

セールスマン(2016年製作の映画)
4.1
おばあちゃんの家の匂いを嗅いだような
「あぁ、これこれ」という感じ
特に本作は『別離』と香りが非常に似ていました

アスガー・ファルハディ監督が描く人間模様は、いつもグレー
誰のことも善人とも悪人とも断ぜず
それぞれが人生で大切なものを背負っているということを示してきます
割り切れなくて時にやるせなくて悶々とする
そこに人間味を感じられるのが魅力で
しみじみと、そして色濃く心に染み込んでくるものがあります

当事者しか分かり得ないことを当事者が明言しない
物語において重要とされる「真実」というものが存在しているけれど
警察や司法といった第三者的かつ力のある目によって
暴かれるないし断定されることを拒絶しブラックボックス化
それが人の心の機微、苦悩や葛藤を生み出す装置となっています
罪の罰を受けるのは当人だけではない
私刑の難しさをまざまざと見せつけられました

『別離』とは違って冗談を言い合って笑う和やかなシーンもあったりと
情緒的な起伏は増していて
個人的にはこちらのほうが好みかもしれません
眼鏡の度が強くてケント・デリカット(古い)になっちゃっている少年が可愛い
オープニングで舞台(虚構)の照明がパッと点いて
ラストで部屋(現実)の照明がパッと消える
劇中劇の「セールスマンの死」との奥ゆかしいリンクも滋味深い