踊る猫

セールスマンの踊る猫のレビュー・感想・評価

セールスマン(2016年製作の映画)
4.4
アスガー・ファルハディは現代のドストエフスキーになりたがっているのだろうか? と書くとこれもまた頓珍漢か。だが、これまでの作品を振り返ってみれば彼が「罪」を、そしてその「罰」を描かんとしているそのこだわりに驚かされてしまう。ミステリとして観ればこの映画は贅肉が多いが、その贅肉こそがこの映画の旨味だとも感じられるのでもどかしい。この映画では夫婦ふたりは『セールスマンの死』という芝居を演じるが、それはその芝居を通じて彼らが真の愛を「演じる」ことの重要さを学び、しかしそれがリアルでは遂に為し得ない事柄である(から、「演じる」しかないこと)を学ぶことから来るのではないか、と感じられた。ラスト・シーンの彼らの姿はその意味で切ない。ハネケや黒沢清ならもっと巧く撮っていただろう題材だが、敢えて無骨に勝負に出たこの監督のこだわりと不器用さを私は評価したいと思う。
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