いののん

セールスマンのいののんのレビュー・感想・評価

セールスマン(2016年製作の映画)
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近しい人が、いわれのない被害を受けてしまったら。
白黒はっきりつけたくなる。なんとしても加害者を見つけ出したい。しっかりとした謝罪を要求したい。制裁も加えたい。 “正義”の側に立って、いけるとこまでいきたい。静かに燃える炎に、自分で油を注ぎ足して。

でも。
被害にあってしまった者が望んでいるのは、そのようなことではない。
自分の近しい人には、優しい人のままでいてほしい。近しい人に、今まで以上に自分の近くにいてほしい。ただただ寄り添っていてほしい。自分の悲しみや痛みを理解してくれさえば、もうそれでいいのだ。

被害にあってしまった者の、そのささやかな望みは、多くの場合、手に入らない。そもそも、その望みは、ささやかなんかじゃない。被害にあった人の多くは、それまで以上の孤独を抱え、生きていかなくてはならないのだ、きっと。被害に遭ってしまったこと以上の苦しみや悲しみが、そこにはある。近しかった人が、誰よりも遠くへ行ってしまう。

だからこそ、自分は強くなりたい。強くて優しい人になりたい。


映画を観ながら、どんなに復讐したくなっても絶対に止めようと堅く心に誓いました。それは相手を赦すとかいう、私の心が広いからじゃないです。復讐しようとした相手が悲惨な状況に陥ったら、私の方が加害者になってしまうから。そんなの割に合わない! だから、私自身の心の狭さゆえに、復讐はやめようと堅く心に誓いました。

さらに自分の心は脱線していき、仕事でも何でも、言動の強い人に負けたように見えたっていいじゃないかと、自分自身を納得させました。やり返せないと、何だか負けたみたいに感じて、いつかやり返したいとやり返せもしないのに、心の中でフツフツとさせたりするけど、別にそのままでいいんだと。負けても楽しそうに生きていれば、そっちの方が勝ちなんだぜと。
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