びーち

セールスマンのびーちのレビュー・感想・評価

セールスマン(2016年製作の映画)
3.9
反米のイメージが強いイランだが、主人公夫妻はアーサー・ミラーの「セールスマンの死」の上演するし、iPhoneを使うし、「スポンジ・ボブ」に夢中な子がいたりする。意外に思って観ていたら、どうやら芝居は検閲を受けているようだ。高校教師の妻が、引越し先で、何者かに暴行を受ける。妻は警察に届けることを断固拒否、周囲もそれを諒とする。イスラム教を法の基本とするイランにおいて、女性の権利は著しく低く、暴行事件の場合、逆にあらぬ詮索を受けることさえあることが、その理由のようだ。事件は夫婦とその周囲に波紋をもたらす。それまでの円滑な関係が軋みだす。独自の調査に乗り出した夫は、犯人を特定すると報復しようとする。それは所謂「私刑」だ。近代化されたイランの旧弊なところがここで浮き彫りになる。それでも被害の当事者である妻が「赦し」を主張するのが一条の光となるのだが。劇中、頻繁に描かれる教師夫婦が出演する「セールスマンの死」は“繁栄するアメリカの終焉”を主題にしたものだ。とても意味深長である。
びーち

びーち