セールスマンの作品情報・感想・評価 - 86ページ目

「セールスマン」に投稿された感想・評価

へたれ

へたれの感想・評価

4.0
良かったとこ1。隠喩。
直接的な表現は皆無で、主役夫婦が越してきた部屋の前の住人の姿を浮き彫りにする手法が見事。「セールスマンの死」のリハーサルで演じられているシーンが何故あのシーンなのかなど、あれこれ考えさせられる仕掛けが盛りだくさん。

良かったとこ2。主演2人。
特に終盤にかけての追い詰められっぷりの見事さ。

良かったとこ3。「セールスマンの死」との重ね方。
戯曲との間で物語に繋がりはないものの、父親としての役割が崩壊する「セールスマンの死」と、夫としての役割が崩壊するメインストーリーの対比に始まり、終盤にはまた別の「セールスマン」を登場させる巧妙さ。

残念だったとこ1。中盤で話が停滞する。授業中の居眠りのシーンとか、丸ごと無くても良かった。

残念だったとこ2。サスペンス性無し。それが監督の目的ではないのは分かるけれど、犯人に辿り着くまでの道のりが単純なので、拍子抜けした。

このレビューはネタバレを含みます

悔やむべきはセールスマンの死の内容を知らない自分の教養の無さ。
役者に与える設定の負荷が半端なく重い。説明的な台詞とか綺麗な映像描写とか、そういうのじゃなく、役者の演技一本で勝負してくるあたり、武骨で見事。だって謎が何だったのか結局誰も言ってくれないし謎解きもないんだけど、誰が見ても謎の正体わかるもんね。
観終わってモヤモヤしてたけど、レビューで見つけた「憎しみは愛に勝てない」という言葉を見つけて妙に感動が来た。
それにしても、ライク・サムワン・イン・ラブもそうだけど、おじいちゃんになっても性に強いのはイラン的に常識なんかねえ。
健一

健一の感想・評価

3.6
アカデミー外国語映画賞受賞もあり観る前の期待が高すぎたせいかイマイチ。同じファルハディ監督なら前作「ある過去の行方」「別離」の方が全然良かった。しかし巧みな構成、演出力はさすが。オープニングシーンのこの[何?何?感]きらいじゃない。
yuki

yukiの感想・評価

4.2
2017年劇場鑑賞62本目。

「別離」につづきファルハディ監督が再びアカデミー賞外国語映画賞を受賞した本作。

「別離」に通ずるものがある本作も、事件が起きる前からなぜかぐいぐい引き込まれ、事件後は夫婦の関係性が徐々に崩れていくリアルさでドキドキ。
どう転ぶのか、着地点はどこなのか、緊張感を切らさず保つのが素晴らしい。
直接的描写はなくとも素晴らしい作品になるというお手本のような作品。

被害者、被害者の夫、加害者、それぞれの気持ちや関係、立ち位置が入れ替わっていく様がうまく、引き込まれる。

妻のために真相を追ってたはずの夫はいつの間にか自分のための復讐に走る。この変わりようがすごい。学校での変化が顕著。でも犯人を知りたい気持ちは十分にわかる。
被害者である妻はイランの女性としてのあり方というか、社会的なものを感じさせ苦しい。表情見てるだけで苦しかった。

悪いのは加害者一択なのに、間違いなく悪いのは加害者なのに、終盤の展開に心のざわつきがどうにも収まらず一人で苦しむ。
夫の行動も妻の気持ちも理解でき、加害者の向こう側も見えてしまう。
なんとも言えないやるせない気持ちが彼らの表情と共に残る。

悔やむべくは「セールスマンの死」を知っていればいろいろ考察できたんだろうな…と。
すげ〜〜モヤモヤする。
復讐劇になるのかと思いきや、急に気持ちの持って行き場がなくなったようで茫然自失になる…こんな感情は初めてかもしれない。

でもこの感じ嫌じゃないよ!
好きと考えて………
いいでしょうっ‼︎(ババーン‼︎)
酔子

酔子の感想・評価

3.5

このレビューはネタバレを含みます

映画らしい映画を久しぶりに観た気がする。
彼女の赦しはどこからきたのだろうか?
イランの社会を考えたら、警察に
行って事件が騒がれるのが厳しいことはわかる。そのための赦しなのか?優しさなのか?信仰なのか?
夫の怒りの先はどこなのか?犯人への憎悪だけなのか?妻への疑念なのか?自分自身の行動に対してなのか?
男性優位の社会では犯人の甘えもごく普通のことなのか?
恐らくはその全てであり、全てでなく、現実は虚構の舞台と重なっていくんだろう。

舞台では、裸のシーンでコートを着ていることで一悶着、上演には検閲が入る。
そして実際にこの映画自体も検閲されている、イランという国の現状。
それを逆手に取ったかのようなサスペンスの盛り上がり。あっぱれ。
隙がなさすぎて疲れるけど、演劇仲間で新居を斡旋してくれたおっちゃんの留守電の猫なで声が個人的に頂点。本物の猫成分はちょうどよろし。
T

Tの感想・評価

4.1
憎しみは愛には勝てないって、「パトリオット・デイ」で言ってたなー。
きえ

きえの感想・評価

3.9
アカデミー賞外国語映画賞、カンヌ国際映画祭脚本賞受賞のイラン映画。

ある暴行事件をきっかけに、被害者である妻とその夫の関係が徐々に変わって行く様をアーサー・ミラーの戯曲『セールスマンの死』を劇中劇として絡ませながら描いた心理サスペンス。事件を表沙汰にしたくない妻と犯人探しを始める夫。それぞれの着地点は何処に…

物語の性格上、本来なら売りになるはずの暴行シーンも暴力シーンも一切描かれない。『ドアの隙間』と言う最小限の描写で観客のイマジネーションを最大限に刺激する。そこには統制国家の現状が見て取れるが、何事にも検閲が入るイランに於いて性的描写はおろか女性の肌の露出もNGなのだ。この作品の場合はその様な状況を逆手に心理描写に徹した事が寧ろ良かったと言える。僅かなシーン描写とその後の苦悩などによって、あの時何が起きたのか、何をされたのか、観客はずっと想像し続けるからだ。

この作品は多くの意味でとても重い。
イスラム教の教えに基づく政教一致国家は完全なる男尊女卑で、男性優位社会での女性の発言権はあまりにも弱い。性的暴行の被害者であっても女性側の非が責められる国家的土壌があり、理不尽にも程があるのは性被害の女性側が絞首刑になる判例が存在する事。それらを踏まえて作品を見ると妻が何故事件を表沙汰にしたがらなかったのか、自分自身の中に押し殺そうとしたのかが理解出来る。

また、先日見たイラン映画『人生タクシー』を彷彿とさせるような乗合タクシーのシーンでは、主人公エマッドが隣に乗り合わせた女性から言われる一言の中に、国によって抑圧されたイラン女性のやり切れなさが表れている。

この作品のテーマは『復讐』に対する”答え”だ。答えと言っても答えはない。だから様々な作品が生まれる訳で、その中でもこの作品は1人称ではないところが秀逸なのだ。つまり被害者である妻の視点と被害者家族である夫の視点が『復讐』と言うキーワードによってどう作用して行くのか、そしてそれぞれどんな答えを選択するのか、そこに至るまでのサスペンスフルな面白さなのだ。

特にラストの30分は物凄い。息をするのも忘れる。詳細は避けるがこれほどの葛藤があっていいものなのか。妻そして夫、更にそこに加わる1人の男。密室と言う逃げ場のない緊張感の中に映し出された三つ巴の感情描写は、数々の名作サスペンスに勝るとも劣らない一級の展開だ。暴力描写もなく心理描写だけでここまで魅せるイラン映画の力量に圧倒された。もう一度言う。ラスト30分が凄い!素晴らしい!

素晴らしさはまだある。人間と言うものを善悪両極で描いていない点だ。善人の中にも悪があり、悪人の中にも必ず善がある。色んな面を持ち合わせたのが人間で、そもそも完璧な人間など何処にもいないのだ。だからこそ赦すと言う行為が必要なのかもしれない。一方でそんなの綺麗事な感情だと言う思いもある。とにかく一緒に葛藤して欲しい。いやせざるを得ない巧みさだ。

巧みと言えば、何と言っても戯曲『セールスマンの死』を絡めたストーリー展開である事。舞台上でも夫婦を演じ、主人公同様徐々に変わり始める夫の姿や台詞が現実にリンクしている。なので鑑賞前に『セールスマンの死』のあらすじは把握してから見る事をオススメ。

戯曲『セールスマンの死』とタイトル『セールスマン』。見終わるとこのダブルタイトルにうぉーってなる。途中退屈な時間もあったけど、最後の30分が全て持って行った。イラン社会の現実をも見せながら、濃厚な心理ドラマに仕上げた手腕はさすが。
ma

maの感想・評価

4.0
起こってしまったことの残酷さが、生活の中で少しずつミシミシ広がって辛い。