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オリ・マキの人生で最も幸せな日のrayconteのレビュー・感想・評価

5.0
その男は、戦いに生きるにはあまりに愛に満ちすぎていた。

実在したフィンランド人プロボクサー、オリ・マキをベースとした作品。
オリ・マキの心にはいつも花束がある。誰かに向けた愛と、思いやりをぎっしり詰めこんで。

画面はヌーヴェルヴァーグのオマージュらしきレトロな風合いで構成されている。
「MANK/マンク」も似た手法を取っていたことから、映画界ではにわかに流行がきていたのだろうか(たまたま?)。
主人公はプロボクサーではあるが、決してスポ根映画ではないし、いわゆる成り上がりものでもない。むしろ真逆だ。
オリは、常に自分以外の誰かのことを考えていて、それゆえにプロに徹しきれない。
誰かを想うことは迷いを生み、慮ることは重圧を生む。
まさに「レイジング・ブル」ジェイク・ラモッタの真逆のような男だ。
強くはないかもしれないけれど、決まりきった社会の評価基準の中で成果を出すことだけが「幸せ」ではないことを教えてくれる。
この映画のラストシーンを観たら、なるほど確かにこれは「オリ・マキの人生で最も幸せな日」だと納得するはずだ。

人は優しさや愛ばかりでは生きていけないが、それなしに生きていけるわけでもない。人生を冷徹に生きることは簡単で、愛しつづけることこそ挑戦なのだ。
きっと僕は、何かあるたびにこの映画を繰り返し観ては、幾度となく助けてもらうことになるだろう。
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