Inagaquilala

モン・ロワ 愛を巡るそれぞれの理由のInagaquilalaのレビュー・感想・評価

4.0
初心者カップルにはちょっと辛いデート・ムービーになるかもしれない。もちろん出会いの頃の甘いシーンもある。しかし、この作品の真骨頂は、ふたりに問題が起きた後の諍いの描写にある。

ふたりの対立はかなりリアリスティックに描かれていく。それも嘘をついたから信じられないとか、浮気したから別れるとか、そんなシンプルな感情ではない。手垢のついた表現で言えば、愛憎半ばするとでも言おうか、離れたいのに愛している、愛していないのにいっしょにいる、かなり錯綜した愛の歴史が仔細に語られていくのだ。

スキーで膝を痛めた主人公のトニー(女性、劇中マリー・アントワネットとも名乗る)は、海辺の施設で治療とリハビリテーションの日々を送っている。「膝の痛みは人生の痛み。膝は前には曲げられない」という教訓めいた医師の言葉に、彼女は自分の「痛み」を振り返りはじめる。それは、10年前に恋に落ちたひとりの男性ジョルジオとの激しい愛の生活であった。

物語は、療養施設でリハビリを続ける主人公が過去を回想するかたちで進行する。女性弁護士とレストラン経営者として出会ったふたりは、すぐに恋に落ち、結婚に発展するが、彼女が新しい命を宿したことで、男性の元恋人が自殺未遂を起こし、蜜月の関係に暗雲が漂い始める。

現在と過去が交差するかたちで物語は進行していくが、主人公の膝の回復とともに、過去のふたりの関係が悪化していくのが象徴的だ。とくに普段は知的な身重の主人公がパーティーで錯乱する修羅場や夫が生まれた子供(名前はシンドバッド)を元恋人に抱かせる場面など、なかなかビターなシーンが多々あり、そのあたりひと筋縄ではいかない恋愛映画ともなっている。

監督はかつてリュック・ベッソンとも結婚していたマイウェン。女優としても活躍する彼女だが、ふたりが絡むシーンの執拗な演出はかなり見応えがある。過去の話は中盤からかなり辛い話になっていくのだが、それと対照的に現在の主人公は膝の具合は回復し、周囲の療養仲間の若者たちとも打ち解けていく。最初は明と暗であった過去と現在の対比が、やがて暗と明になっていく、この構成は見事だ。

主演のエマニュエル・ベルコとヴァンサン・カッセルも、この10年の時を経た時間を見事に演じ分けている。とくにジョルジオ役のヴァンサン・カッセルのいかにも遊び人然とした颯爽な伊達男ぶりと、10年後の人生の辛酸を経て年輪を刻んできたと思わせる渋い演技は、同じひとりの俳優が演じているのかと思わせるほど卓抜だ。

「モン・ロワ」とは「私の王様」というような意味だが、その意味するところは観てのお楽しみということにしておこう。もしかしたら、これから新しい愛の歴史を刻もうとしている初心者カップルには、立派な教科書になるかもしない。転ばぬ先の杖ではないが、そういう意味で観れば、これはいろいろなテーマを含んだ作品なのかもしれない。少なくとも当たり障りのない凡百の恋愛映画よりは。
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