ベルサイユ製麺

マリアンヌのベルサイユ製麺のレビュー・感想・評価

マリアンヌ(2016年製作の映画)
4.5
全然意識に無かった作品。ロバート・ゼメキスでつまんない事は無いだろうぐらいに思ってたのだけど、面白い/つまんないなんて問題ではなくて、ただただ映画的喜びに満ちた美しい映画でした!

第一幕、敵地に一人降り立った諜報員マックスと、初対面の仏軍レジスタンスのマリアンヌが互いにマウンティングしあいながら、共通の命懸けの目的に向け緊張感を高めつつ徐々に惹かれ合っていく(但し…)あたりで、鑑賞しながら自分も既にこの映画を愛してしまっていたのだと思います。
砂嵐に包まれた車中で初めて愛を確かめ合う二人のシーン、こんなの観た事ないよ!示唆的かつ美しい!What a lovely day!(照れ隠しが・半端に古いし・面白くない)
それだけで単体の作品として機能しそうな緊迫感溢れる暗殺シーンから、戦時下のロンドンでの愛の生活の二幕、そして更なるサスペンス的構造の浮かび上がる第三幕まで、全く異なるドラマを違和感なく繋いでいきます。見事!ロバート!ゼメキス‼︎
未見の方の為にストーリーには詳しく触れませんが、ある程度映画を観つけている方ならば、まぁ、思った通りの展開では有ると思うのです。本作において真に感動的なのはそのストーリー展開ではなく、真相が明らかになってからの主人公たちの行動です。かつては国家・信条の為にマシーンの様に従順で、緻密な計算の元に徹底してリスクを軽減していた彼らの、土壇場での必死な踠きのなんと切ないことか…。

素晴らしい美術についても触れなくてはいけません。豪華絢爛、或いは生活感の染み付いた様な重厚なセットも、銃火器や車両、衣装などの小道具も見事です。カサブランカもロンドンも訪れた事はありませんが、単に当時の、その場所に居るのだとしか感じられません。そして場面毎の湿度まで映しこんだような撮影、これ見よがしにならない(恐らく“地味にスゴい”)CG、感情をリードしてみせる極めて端整な劇伴もとても良い。
何より主演二人の演技です。ある時期以降、どんな役柄を演じても何処かで哀しみが滲んでしまうブラッド・ピット。捨て駒と成るべく自我を押さえ込んだ男が、守るべき者を得て、強さと弱さを併せ持つ“人間”に成るまでの過程を、恰も本当に年月を経たかのような説得力で演じてみせるのは流石の一言。
そしてマリオン・コティヤール!通して観終えてこそ分かる、何重もの仮定を孕んだ複雑な役柄を、何と見事に演じてみせるのでしょう‼︎並みの女優であれば、とても陳腐な演技プランで作品そのものを安っぽいソープオペラの如くに貶めてしまったのではないでしょうか。

明確な意図によって完全にコントロールされた各々のパーツを、これ以上無い手腕で繋ぎ合わせた、まるで結晶の様に美しい一本だと思います。
作品のメインメッセージでもある“未来に託された希望”のうえに我々の日々の営みが有るのだと思うと胸が熱くなります。折りに触れ観返したい、個人的なフューチャークラシックになりました。

それにしても、これ程の傑作を危うく観逃すところだったとは、つくづく自分の嗅覚の鈍さが嫌になりますね…。

〈追記〉
原題は“同盟”みたいな意味らしくて、確かに言い得てるのだけどクール過ぎるので、放題“マリアンヌ”は悪くないですね。個人的には“マリアンヌについて”とかが良いんですが、なんかエロくも聞こえる不思議。
エンディング、物悲しい第一エンド曲に合わせてロバート・ゼメキスの名前が大写しになった直後、軽快この上ないスウィングジャズ「sing sing sing」が流れ出す瞬間に完全ノックアウトです。『楽しんでもらえたかな?』とでも、或いは『されどパーティは続くよ』とでも言わんばかりですよ…。