emily

旅芸人と怪物たちのemilyのレビュー・感想・評価

旅芸人と怪物たち(2015年製作の映画)
4.1
テントと舞台衣装を荷台に積んで街から街へと移動していく旅芸人達。観客にひとときの夢と幻想の世界を見せ、観客を巻き込んだ熱のある舞台に引き込まれる。しかし舞台女優の1人が怪我をし、代役に昔の女ローラを呼び寄せたことで、保たれてきたバランスが崩れ始める。そこに新たに生まれる命が交差する。

閉鎖空間の中でグルグル動き回る演者。観客との距離感が近く、舞台では観客も巻き込み、参加型の生きたショーを見せてくれる。劇中ではしっかり舞台裏も大きく使って動き回る彼らのみずみずしい演伎がオレンジの光の中に溶け込む。

常に陽気な音楽が流れ、テンションが高くお祭り騒ぎだが、スペイン人のロラ・ドゥエニャスが演じるローラが登場することで、妻の嫉妬が娘の不満に拍車をかけ、サーカスの演者達が舞台で繰り広げられる家族喧嘩を腰掛けて見つめる観客へとシフトして行く。

家族であるはずのサーカス団、強い絆で結ばれているからこそ家族のゴタゴタには首を突っ込まず観客に回る。ただ見つめている。そのドタバタ喜劇はコロコロ転がり、妻の身体をかけたオークションまで始まる始末に。女と男の現実感の違いや、動きを大きく使って、たくさんの演者の配置でみせる幻想の中でしっかり根付く現実が、冷めない夢を見てるような残酷さを浮き彫りにする。

水のないところにいる、魚のようや居場所をなくした牛のような、それでも夢を売らなくてはいけない。自分たちは夢を与えることしか生きるすべがない。自分に戻る時間は次の街へ移動する時間なのかもしれない。

夕日が美しくそれぞれの横顔を映し、その後塊のサーカス団を映す。一人一人の暮らしがあって一人一人の個性がある。しかしそれらはこの団という枠組みで、殺し殺され自分を演じて生きていくしかないのだ。

しかしそれは見方を変えれば幸せなことなのだ。対照的にみせる無音の中、元妻を訪れるため、いなくなったもうすぐ父親になる男のドラマが印象的だ。それでも彼は戻ってくる。終わらない今日が続く旅人団に戻ってくる。ここが居場所で、ここが生きる場所だから。誰かを喜ばせるために払う犠牲は大きい。しかし陽気な彼らが必要な人達がこの世にはたくさんいる。
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