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ヒップスターのtetsuのレビュー・感想・評価

ヒップスター(2012年製作の映画)
4.8
マーベルの新作『シャン・チー』の公開に合わせて、デスティン・ダニエル・クレットン監督の過去作が気になったので、鑑賞。


[あらすじ]

正直な言動や行動を貫くあまり、周囲との調和を保てないインディー音楽アーティストのブルック。亡き母の遺灰を撒くためやってきた3人の妹たちと父の再会や友人との交流により、彼の人生に転機が訪れる。


[感想]

正直、ここ最近、本当に刺さる映画を観れていなかったのもあって、今の自分に、ここまでハマる作品があるのかと感動した。

偽善や欺瞞に満ち溢れた社会や、不誠実な自分の生き方に迷っているのもあって、これからも胸に刻んでおきたい映画だった。


[最近思うこと]

政治的・国際的アピールにまみれた某祭典の開会式や、増加する感染者数をうやむやにする政府、一方でうわべの人間関係を否定するクリスチャンの兄だったりと、ここ最近、「誠実さ」について思うことがあり、地味な映画ながらも、めちゃくちゃ共感する部分が多かった。

異国の大災害に心を痛め、亡き母との思い出をお涙頂戴エピソードとして消費しようとするラジオ司会者にぶちギレ、模倣だけの創作物に嫌悪感を示す主人公。

その誠実さゆえに他者との調和を乱すことが多いけれど、そんな彼の生き方には憧れる部分さえあった。

確かに、場の雰囲気を乱すことは考えものだけれど、それを自然と避けることで自分の意見を押し殺したり、もはや、考えることさえやめてしまうことよりは、よっぽど価値を感じる生き方だなぁと。

そんな点も含めて、今後の自分の人生に、かなり影響力をもたらしてくれる作品だった。


[タイトルの意味]

本作のタイトルになっている言葉"HIPSTER"は、海外のスラングとのこと。

流行の最先端を行く人という意味が転じ、現在では、かっこつけという意味合いが強く、日本でいう"サブカル系"のような文脈で使われているとか。

ただ、本作の原題は『I am not a hipster』となっている。

単に気取っている人たちを否定し、本当の芸術とは何かを説く主人公の姿には、そんなタイトルの意図が感じられた。


[終わりに]

信念を持つがゆえに衝突を避けられない主人公の生き方が印象的だった本作。

派手な場面や記憶に残るカットもなく、周囲の調和を重んじる意識が強い日本では評価されづらい作品なのは間違いないが、少しでも、届くべき人に届いてほしい隠れた傑作だった。


参考

夏目漱石 現代日本の開化 ――明治四十四年八月和歌山において述――
https://www.aozora.gr.jp/cards/000148/files/759_44901.html 
(某式典を見たときに、スゴいとは思いつつ、ふと、この文の"皮相上滑り"って言葉が浮かんでしまったんですよね……。)

台本11冊を入手 五輪開会式“崩壊” 全内幕 計1199ページにすべての変遷が | 週刊文春 電子版
https://bunshun.jp/denshiban/articles/b1436 
(どこまでが真実なのかは断言できませんが、少なくとも、権力者の圧力や思いつきがアーティストの素晴らしい作品を踏みにじる事例は多々起こっているわけで。有料記事になってしまいましたが、気になる方は読む価値もあるのではと。)
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