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ブンミおじさんの森のニトーのレビュー・感想・評価

ブンミおじさんの森(2010年製作の映画)
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 最初の20分くらい観ているとちょっとタルコフスキーを想起させるのですが、でも全然そういう映画ではなくて、むしろ黒沢清のような、しかし立ち位置としては黒沢清と対局にあるような人間的な温かみがあるというか。

まあ、バートンがこれを観て「ファンタジー」と称するのもわかる。わかるんだけど、それってつまり異界としての他者との邂逅だから、厳密にはこの映画そのものはファンタジーではないんだと思う。バートンもそのへんはわかっていそうなコメントではあるんだけど。
タイの文化と日本の文化がどの程度の共通点を持っているのかはわからないけれど、多分、欧米人や北欧の人がこの映画を観た場合とではかなり印象が異なると思う。
というのも、この映画にはアニミズムが日常の範囲にあるからだ。猿人になってしまったブンミの甥っ子とか、カットを割らずにフィックスのままごく自然に現れる死んだブンミの妻の霊とか。少し驚きはすれど慄きはせず、その驚きも概念そのものに対してではなく「なんだよ、そこにいたのかよ」といった程度の驚きだし。

あと猿人が森の中で赤い目を光らせているのとか、モロに「もののけ姫」の猩々まんまだったりするのとかを考えると、やっぱりアジア的というかアニミズムだったり八百万とか付喪神とか、あの辺の文化に近いのだと思う。

だから、バートンが観たようにはわたしの目にはこの映画は映らなかったかなぁ。それでも、奇妙な体験をしたいのであれば割とオススメかもしれない。感性的に近いものがあるからこそ、むしろ大きな隔たりを見せつけられて奇妙な感覚に陥るし。
説明を排した部分やあまりにスローペースな作風はかなり好みの分かれる部類だと思うし、わたしも正直なところ集中が途切れたりしていた部分はあるので、なんとも言い難いところではあります。

でもまあ、中盤のナマズと王女の異種姦はエンドクレジットあたりの「前世を思い出せる男」から着想を得たという字幕で「あーもしかしてあれって前世かなぁ」とわかる感じではある(いやまあ、冒頭にも前世云々のくだりはありますが)ので、キューブリックが好きな人はそういう映像で語る作家だと思うのでオヌヌメかもですね。
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