けんたろう

ブンミおじさんの森のけんたろうのレビュー・感想・評価

ブンミおじさんの森(2010年製作の映画)
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【2019年9月4日の記】
絶対に映画館で観なければいけない物語。

映像が美しくて美しくて困った。
これはテレビ画面なんかで観てはいけないのだと悟っても、もうどうしようもないからだ。さらに、この静寂性プラス環境音はやはり映画館で体験してなんぼの物であろう。困った困った。

ストーリーはというと、とても単調で、いたって普通のドラマである。しかしその中では、神秘的で、とても理解しがたい現象が何度も起こる。ブンミおじさん達がそれについて、一旦は不思議がるものの、すぐに慣れてしまうのは本当に面白かった。
さて前世が見えるとは一体なんの話なのだろうか、全くわからない。でもその分からないことに、彼ら同様ぼく自身も慣れてしまった。見たところ、今作が言葉を並べるような映画とはとても思えない。だから考えることは放棄。
と、ここで『トゥレップ〜「海獣の子供」を探して〜』の、言葉で語ろうとすればするほど、そこからは離れてしまうという事を思い出した。
もしもその通りであれば、言葉で考える事を放棄した僕は、今作の画面を見つめている間、あの森の中を歩いていたのかもしれない。

脳みそからはあまりにも遠く、けれど身体からはあまりにも近い、そんな森の物語であった。


【令和四年四月十日の記】
虫のね森のねが響き渡る、美しき静寂の森。何処かしら死の香りがする、青き月影の映ゆる森。此の眼前の木々が炙り出したる闇には、己れの前世が現ると云ふ。果たして此処は、死と生の狭間なんかしら。不図、見惚れてしまふ。

たゞ本作、美しきだけではない。『光りの墓』同様、此れ亦たユモアが在る。矢継ぎ早やに不可思議なことが起こる、此のとにかく奇妙な映像のなか、然も其れが普通のことのやうに営まるゝ日常生活。我々と同じき科学が奴隷の、呆然とせし滑稽なる表情。矢張り面白い。
然うして優しい。優しくて可笑しい。此んなにも静かでユモラスな映画は然う然う在るまい。心が満たされる。

予てから劇場で観たいと思うてゐた本作。念願、漸く叶ひき。
他のアピチャッポン映画が観られたことも併せ、まこと愉しき一日であつた。


①2019年9月4日 DVD
②令和四年四月十日 イメフォ 2