近藤真弥

IT/イット “それ”が見えたら、終わり。の近藤真弥のレビュー・感想・評価

4.5
大好き。ホラー映画でありながら、少年少女たちの青春物語でもある。さまざまな社会問題への批判精神が色濃いのも印象的でした。なかでも秀逸なのは、べバリーの境遇の描き方。おそらくべバリーは父親から性暴力を受けているんだけど、それを示す直接的な描写はない。父親とべバリーの関係性を匂わせる数シーンで多くを語っている。たとえば、洗面所でべバリーが血まみれになるシーンは、月経の表象であると同時に、べバリーのトラウマを表すものでもある。

トラウマといえば、ペニーワイズは少年少女たちの弱さを反映した存在ですね。少年少女たちが一斉にペニーワイズを「殺せ!」と叫ぶシーンがあるけれど、あれはペニーワイズというより、少年少女たちを抑圧するものへ向けた叫びでしょう。人の弱みに付けこむというペニーワイズの設定を活かしたシーンです。劇中で見られる社会問題は、家父長制、ヘリコプターペアレント、性暴力、スクールカースト、ルッキズムなど多岐に渡ります。なので本来は、R-15の対象になっている人たちに観てほしい映画です。大人が観て、子供に対する接し方を考える可能性もありますが、そこまで読み取ってくれるかは正直微妙。日本には分析的に観るという習慣が広まってませんからね。

少年少女たちを演じる役者陣は全員見どころたっぷりだけど、群を抜いていたのはべバリーを演じたソフィア・リリスです。海外でも本作がキッカケで有名になったくらいの役者で、文字通りこれからという役者ですが、横顔がいちいちカッコいい。魅力的に見せる立ち居振る舞いを本能で知っているかのような演技にやられてしまいました。2002年生まれだそうですが、この先が楽しみです。

こうした多くの面白さがあるだけに、しょうもないB級映画と勘違いされそうな邦題の致命的センスのなさは何とも罪深い。
近藤真弥

近藤真弥