マヒロ

IT/イット “それ”が見えたら、終わり。のマヒロのレビュー・感想・評価

4.0
アンディ・ムスキエティ監督の前作『MAMA』は、ストーリーがどうしても受け入れられずダメだったんだけど、今作は正統派ジュブナイルもの+ホラー風味と言った感じの、たまにおっかないピエロが出てくることを除けば爽やかな物語でなかなか良かった。

舞台が80年代で、スクールカースト下層部に生きる少年たちが怪異に挑むというとどうしても『ストレンジャー・シングス』を思い出すけど、『ストレンジャー〜』ほど"らしさ"を前面に押し出してこなかったのが結構意外。最近は映画でも意味もなく80年代回帰をモチーフに作られているものが多い中、ズバリその時代が舞台なのに何も匂わせてこなかったのは意図的なのかそもそも作り手に興味がなかったのか。
化け物ピエロのペニーワイズは相手の恐れているものに変身するという能力を持っていて、かつ途中で『エルム街の悪夢』を上映している映画館がチラリと映るので、まさかフレディに…と期待したんだけど、特にそういったカルチャーに対する接近も無く。あんまりオマージュまみれだと冷めるけど、ここまで無頓着だと逆に勿体無く感じてしまう。

ペニーワイズといえば、個人的にはあまり恐ろしい存在ではなく、道化師らしいコミカルな動きの方が目立っていた印象。もちろん脅かしてくるのでビックリするけど、そのやり口も性格の悪いジーニーみたいなもんなので、次はどういう出方をしてくるんだろうと楽しみですらあった。『MAMA』でもよく使っていたキモいシャカシャカ走りや、映写機から現れるシーンなんかは特にクール。ピエロ特有の薄気味悪さは無かったけど、若干斜視気味なところとかも含め、ダークヒーロー的な格好良さがある。

少年たちの冒険譚としても、それぞれ問題を抱えた少年少女達が、殺人ピエロとの戦いという通過儀礼を経て成長していくという物語で、ややベタながらも楽しかった。一番上がったのも、ホラーなシーンではなく彼らがいじめっ子達と真っ向対決するシーンだったかもしれない。
全員のペニーワイズとの遭遇を描く関係で、バックボーンがあまり描かれなかったのがちょっと残念。『スタンドバイミー』のキーファ・サザーランドポジションながら、気に食わないというだけでマジで殺しにかかってくるという百倍サイコな不良男も、ほんの少しだけしか背景が語られないので、そこまで凶行に及ぶ理由がちょっと理解しがたい。

一番気にかかるのがBGMの異様な喧しさで、ホラー映画とは思えぬハリウッド超大作みたいな劇伴が常に鳴り響いているので、少々気分を削がれる。そこら辺の緩急をもうちょっと付けてくれたら、もっと良い雰囲気になってたと思うんだけど。


(2017.151)[39]
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