垂直落下式サミング

IT/イット “それ”が見えたら、終わり。の垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

4.4
恐怖の悪魔ピエロが子供たちを襲うジュブナイル・ホラー。1990年版はティム・カリーのインパクトだけでもってるようなものなのだけど、今回は原作の一番キャッチーな部分をブラッシュアップしただけでなく、様々なホラーのいいところ取りで構成されており、非常に見世物色が高く楽しい一作となっていた。
神出鬼没なピエロの怖さを引き継ぎつつ原作のノスタルジックな部分を強調し、主人公たちが世にも恐ろしい呪いに触れてしまうホラーサスペンスとしての謎解きを複合し、見事に交通整理してみせている。大多数の人にとって「これが見たかった」と思わせるリメイクになっていると思う。でも前後編にわけるのならもっと短くしてほしかったな。
ペニー・ワイズは風貌からも邪悪さが滲み出ており、子供たちに明らかな害意を向け、人を好んで呪い殺す実態のない存在である。
呪われたピエロは子供に恐怖を与えるために、対象が一番嫌いなものに姿を変えたり、それぞれの「トラウマ」や「コンプレックス」をえぐるような幻影を見せて恐怖させ、それに付け入ることであの世へと引き込むのだ。
ペニー・ワイズが各キャラクターに見せる恐怖のビションは、この子はおそらく育ちがいいんだろうとか、この子は過去に辛い経験をしたんだろうと、彼等の家庭環境を強く意識させるもので、あまり掘り下げられないサブキャラクターにも深みがあっていい。
最終決戦では、全員がそれぞれの恐怖と文字どうり対峙し対決するというのが視覚的に表現されており、ピエロをタコ殴りにする様子はちょっとヤリスギな感じもするが、キャラクターが自己の克服をしていくシーンとして納得度は高かった。
その他演出も冴え渡っていて、冷蔵庫と食器棚の隙間の影になっているところに目が光ったとか、天井の木目が人の顔の形をしていると言って、子供の頃に今になってみれば何のことはないものを怖がっていた感覚を思い出してしまうような良質のジュヴナイルホラーだった。
中盤の川で遊ぶシーン好き。私は今でこそ都会派のオシャレ番長だが、実は出身がクソ田舎なので夏休みはあんな感じの遊びをした。「着替え見たら変態だから」っていう女の子に、口では「興味ねーし」って言いながら、はじめてみるビキニタイプの水着に心臓ドキドキだった夏の日。やがて大人になると、こんな青さや幼さを愛しめるような余裕を持てるようになるけど、こういった恥ずかしい過去の在り様は無しにできないから逃げられないし、自分のなかの思い出はどうあがいても消せないからこそ首の後ろのくすぐったさは後を引く。その甘酸っぱさは「それを経験した」という確かな事実を確認してしまうことによる「逃れられなさ」からくるある種の恐怖なのだと思う。